南陽一、26歳、独身。 只今、高校時代からの大事なだ~いじな仲間の結婚披露宴に出席中。 そしてこの披露宴の席で、重大な任務を任されていたりするんだな! えっ?重大な任務は何かって?それは…、
「南様、そろそろ余興の時間になりますので準備の方をお願いできますか?」 「はい!よしっ、お前ら行くぞ!オレについてこい!!」
式場の係員さんに呼ばれ、新郎新婦が衣裳替えで中座している為、何人もが席を立ちお酌に回っているテーブルの間をすり抜け物陰へと移動する。 そう。重大な任務というのは、この披露宴で行う余興のことだ。
そんなに重大じゃないって? バカ言っちゃいけねえ。今日の新郎新婦はオレらのリーダー沢田慎と元白金3D担任山口久美子だぞ!なにか失敗してやらかしちまったら、いくらめでたい席っていっても、どんな報復をされるかわかっちゃもんじゃねぇ。 だからこそ余興のメンバーは厳選に厳選を重ねて、ここは日頃から気心が知れた仲間だけでやろうってことになった。 そのメンバーはと言うと、クマ、野田、うっちぃ、そしてオレの4人。小人数だが出し物系の余興をするわけではないから充分だろう。 そして余興の小道具を準備してある場所まで移動したオレは、最終確認をしようと仲間達を見渡し、そこで異変に気付いた。
「おい、うっちぃ!お前、大丈夫か!?」
酒には強いはずのうっちぃが、顔を真っ赤に染め、眠気でも襲っているのか目はとろんとして今にも閉じそうになっている。
「あ~、うっちぃ、さっき川嶋ちゃんにすっごく酒注がれてたから」
って、野田!見てたなら止めろよ! これから余興っていう一大ステージだってのに、こんなにフラフラでどーすんだよ!!
「だって、静香ちゃんと話してたから、そこまで気がまわらなかったんだよ」
相変わらず静香ちゃん命なわけね、お前は…。
「クマ!お前はうっちぃの隣の席だったろう!お前もなんで止めなかった!!」 「料理が美味しくて、気づいてなかったんだよぅ」
ったく、こんな日まで食い意地張ってんじゃねえーよ! まあ、飲んじまったものはもうしょうがねえ。けど、どうすっかな~?うっちぃは「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ」って、全然大丈夫そうじゃない顔で言ってやがるし…。
「別に司会はオレだし、うっちぃは盛り上げ役だろ?そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
うっちぃの顔を見ながら考えこんでしまったオレに、横からそう野田が助言してくる。 そう言われて、まあ確かに盛り上げ役で失敗するようなことはないだろうし、その役はオレも一緒にやるから多少のフォローならできるってことと、何よりも余興開始までもう時間がないってことで。
「よし!じゃ、当初の予定通りにやるぞ!」 「「「おう!!」」」
急いで準備に取りかかることにした。
そして、ちょうどオレらの準備が済んだ頃、新郎新婦が衣装を変えての再入場となった。入場する時に慎がヤンクミをお姫様抱っこをしていて、そこはヤンクミ
の悲願だったんだろ~なと遠目でその様子を見つつ、2人が壇上に上がり定番のケーキカットを終えたところでオレらの余興の番になった。 披露宴の司会からオレらが紹介され、まずは野田が1人でオレらがどんだけ慎とヤンクミのお世話をしてきたか(迷惑かけてきたかの間違い)をちょっと笑いも交えながら話し、その後、今日の余興の説明へとうつる。
余興を頼まれたのは披露宴の2ヶ月も前だったが、なんせ皆社会人。しかも業種はバラバラときたもんだから、何をするか決めるにも全員が集まれたのは披露宴
の2週間前だった。そこから出し物練習して~なんて無茶だと思ったし、それだったら定番だけど新郎新婦に質問やら何かやらせよ~ぜと言うことになった。 そこでオレが用意したのは、人の顔程の大きさのサイコロ。当然、各面に書いてあるのは数字なんかじゃなく、
「プロポーズ再現」(慎のプロポーズ真似てみようなんて思ってなぜ!) 「スクワット10回」(これからの夫婦生活には体力は重要だからな!)
などなど、オレが徹夜で考えた文が書いてあるんだな!
そのサイコロは壇上にいる野田には持たせず、まだ物陰で待機しているオレとうっちぃが持っている。最初から持ってくと何するかバレバレだからよ。というこ
とで、いいタイミングで野田が合図を送ってくれたから、そこでオレとうっちぃはサイコロとバナナ、きゅうりを持って飛び出した。 ちなみにサイコロとバナナを持ったオレは猿の、きゅうりを持ったうっちぃは河童のタイツ型着ぐるみを着てたりする。 その格好でテーブルの合間を練り歩き、壇上に到着するころには視線はオレらに集中。
ふっ。これで掴みはオッケーさ!
んで、サイコロを野田に渡して、ここも定番なあの歌を。
「何がでるかな♪何かでるかな♪」
慎がサイコロを振って出たのは「スクワット10回」。
まあ当然あっさり慎はやっちまうけど、それじゃあつまらないってことで、「ヤンクミ愛してる!」と叫ばせながらもう10回してもらおっか♪ 慎はその野田の司会にすっげぇ嫌な顔をしたけど、招待客から盛大な拍手をされちゃあやらないわけにもいかず………。 叫んでるよ、あの慎が! うっわー!めちゃ貴重!!めちゃ楽しいっ!!
そんな慎の姿をヤンクミはうっとり見てる…まあ夢見がちな奴だしな。 そんな感じで、慎の両親や猿(オレじゃなくて猿渡な)に祝いの言葉もらったり(マイク持ちはクマ…移動が遅いっつーのは考えてなかったぜ)とかしつつ、サイコロを振らせてたわけだけど。
これがまた肝心なものを出さねえんだよな~。 慎とヤンクミの奴、なんか変な念送ってんじゃねえーの。
なんて考えていたら、横でヤンクミの声が聞こえた。
「おい、内山。お前、大丈夫か~?」
なにかと思って振り返ってみれば、新婦の立っている後ろにあった暖房機に座りこんで眠ってるうっちぃの姿が…。 ヤンクミが肩を揺すっても「だいじょ~ぶ」なんて言いながら起きようとしない。 どうしたもんかと思ったけど、うっちぃを起こすよりもやらなきゃいけねえことがあったから取り敢えず放置することにして、オレは慎が振ったサイコロに狙いを定めた。 慎が軽く投げたサイコロは壇上から落ちて、招待客の足下へと転がっていく。そして、それが猿(オレじゃなくて猿渡な!)の足下で「スクワット10回」を上にして止まろうとしたところで、オレは猛ダッシュで駆け寄るとお目当ての面が上になるよう手を添えて転がした。 そんなオレの姿に皆苦笑してたけど、やっぱりコレだけはやってもらわなきゃだからな!
それというのも、
「バナナ早食い~!」
野田の一際大きな声がマイクを通して会場に響き渡る。
えっ?バナナ早食いなんかさせて何が楽しいのかって? いやいや、当然ただバナナをたべさせるだけじゃねえよ。
「この早食いは、新郎新婦2人一緒に共同作業でやってもらいたいと思いま~す♪」
そう、要するにだ、バナナの両端から慎とヤンクミに食べてもらって食べ終わる頃には………というのをやってもらうってことさ。 オレは持っていたバナナを丁寧に皮を剥いてから2人に差し出した。 ヤンクミはオレらの意図に気づいて顔を真っ赤にしていたが、ここはやってもらわないとね。
なんていったって、この2人。披露宴の前の挙式でもチャペルでやったくせに誓いのキスしなかったんだぜ! いや、したはしたんだけども、したのがオデコにチューだったんだよ! 結婚式でそれが許されると思ってんのか!? 神様が許してもオレが許さねえ!!
ってことで。 ずずすぃっと慎とヤンクミにバナナを突き付け、招待客の拍手をバックにさあやるんだ!と迫る。 ヤンクミは恥ずかしいのかあたふたしてたけど、ポーカーフェイスの慎は実はノリノリだったんじゃないか? だって、オレがバナナ渡したらすぐさま受け取ったし、すぐ口に加えたからな。 まあ、おかげで?無事2人には誓いのキッスを披露してもらったわけだけど。 しかも、バナナは2本あったから2回もね!
よっしゃー!これで無事終了!!
…と思っていたら、
「もう1回!もう1回!!」
と叫んでいる黒ずくめの集団がいた。 ありゃあ、ヤンクミの黒銀時代の元生徒達か? 茶髪のホストっぽいスーツを着た奴が先導になって騒いでる。
うーん、どうすっかな~?
ちらりと慎を見れば苦笑してるからやってくれそうだけど、ヤンクミがな~。 真っ赤な顔して「もう十分だっ!」って言ってるし。 それにもうバナナがないんだよな~と思って、キョロキョロ周りを見渡していたら。 茶髪の横で周りの騒がしさを呆れた顔をして座っていた奴が、そいつらのテーブルの中央に置かれていた果物の中からメロンを取ってオレに差し出してきた。
これでやらせろってか?
まあ、黒銀の連中以外からも拍手が起きてきちまってるし、もう1回やってもらうか~と思っていたのだけど、
「もう、いいだろう!!」
ヤンクミの断固拒否にあっちまった…。 毛逆立てた猫みたいなヤンクミにこれ以上お願いしたら引っ掻かれそうだな~。 でもしてもらわないと収拾つかなそうだし…。 どうやってヤンクミを説得しようかと時間も押してきていて焦る頭で考えていたオレの手からメロンが誰かにさらわれた。 慎かとおもったけれど違くて。
「うっちぃ?」
まだ酔っぱらってるのか、目をとろんとさせた長身の友人だった。
「でーは、新郎新婦に変わってオレらがお見せしましょう!」
うっちぃは足下をフラフラさせながらも、えらい大きい声でそんなことを言ったかと思ったら、その手に持っていたメロンをオレの口に突っ込みやがった。
「んぐっ」
でもって、その反対側にうっちぃが食いついて。
………ギャーギャーギャー!!! ふざけんな、うっちぃ!! オレとお前がチューしてどうすんだよ!!
ひっぺがそうとしようにも、その長身で頭をがっちり押さえこまれてできやしねえ。 それでもメロンなんてとうに口の中からなくなった頃、渾身の力を込めてうっちぃの身体を押し返し、逃げ出した。
うーわー! 気持ちわりぃ!! すっげぇ、キ・モ・チ・ワ・ル・イ!!
口許をぬぐいながら周りを見渡せば。 ヤンクミの奴、新婦のくせに大口開けてるよ。 そして、ちょっと離れたところで川嶋と藤山がカメラ片手に大笑いしてやがる。 とりあえずオレの精神的ショックは置いといて、こんなんでも終わりにはできるだろうと野田に視線を向けたオレの顔に影が差した。
「み~なみ~!」 「ギャー!」
今度こそ叫び声が口から飛び出たぞ。 酔っぱらっいうっちぃがまたオレに覆い被さってきたのだ。
「やめろ、バカ!!」
もうここが壇上で、新郎新婦がすぐ横にいるなんてことはすっかり頭から吹き飛んで、うっちぃの手から逃げることだけで頭がいっぱいになっていた。
だって、うっちぃの目!いっちゃってるよ!?
その後、慎とクマでうっちぃを取り押さえてくれて(新郎に取り押さえられる友人代表ってどうよ?)、無理やり野田がその場をしめて事なきをえた。
すっげえ疲れたけど、男にチューされて気持ち悪かったけど、まあ最後に笑いがとれたし、これだけ盛り上げられたのなら良しとしよう。 余興が終わり、足を投げ出してテーブルに突っ伏し寝ているうっちぃの頭を殴りつけながら、オレはそう思うことにした。
その場かぎりの、一時の恥で終わることだしな!
と、その後は招待客の1人として披露宴を楽しんで、しまいには嬉し泣きで顔をボロボロにさせながらその日は終わったのだけれど…。
後日、新婚旅行のお土産とともに川嶋と藤山が撮っていたらしい河童と猿のキスシーンの写真とDVDをヤンクミからもらった。 焦点もばっちり、高機能カメラで撮ったようで画像はとても綺麗だった…なんて、こんな写真いらねーよ! オレが欲しいのは、可愛い花嫁さんとの写真だっつーの!! 予定どころか相手もいないけどよ!!!
もう絶対に、結婚式の余興なんて引き受けねーぞ!!!
fin
咲月様ありがとうございました~~~!! 以前よりお聞きしていたご友人の勇姿、最高ッス(笑)。 まさかこんなに事細かに拝読できる日がくるとは思いもよらず…ちょこっと聞いただけで爆笑していた身としては、文章はもちろんのこと咲月様のキャスティングの良さも相俟って、読ませていただいた時はそりゃあもう、大変苦しみました…腹がよじれるかと。どうしてくれる!(自己責任です) 私の腹をよじるだけでは勿体無さ過ぎるので、掲載許可を分捕りました…。 いやもう、いつでも無理矢理なナガムラです…(いやな告白)。 本当ありがとうございました!! PC壊れても良いように、ちゃんと保存用バックアップもしておりますので、当然永久保存です。
ナガムラ
|
|