残暑も大分収まってきた季節。 程よい暖かさの中、屋上のベンチで貪る惰眠は慎にとってとても有意義なもの。
ぽかぽかと天気の良い昼下がりに、いつもの場所でグラウンドの喧騒を遠く聞きながらウトウトと夢と現実を行ったり来たりしていると、キィ…という微かな金属音が耳に届いた。 それはほぼ毎日聞きなれた、屋上のドアを開く音だった為、仲間の誰かが来たのだろうかと霞がかった意識で思う。
「まぁた寝てるよ…」
クスッと微かに笑う声と、鼻に届いた甘い香りはいつも隣にあるもの。
「寝る子は育つって言うしな~」
授業中だというのに、起こすでもなく傍に来てそよぐ風に合わせ髪を撫でられる。
慎は久美子が好きだった。
いつから、とか。どうして、なんていうのは余り確かな記憶としては残ってないが、シンポジウムの時にはもう彼女のことを女として好きだった気がする。
友人達に誘われる合コンにも、擦り寄ってくる女性にも興味がなかった慎は恋愛そのものが初体験で、卒業まで気持ちを伝える気はないものの、ポーカーフェイスの下で一体彼女にどんな態度を取ればいいのか、それまでどんな態度を取っていたのかさえわからなくなっていた。
疎ましいとさえ思った教師と生徒という立場も、久美子の傍に居る理由になるなら失うわけにはいかず、できる限りの抵抗もした。
結果、無事彼女の隣を失わずに済んだけれど…それ以来、いつも隣に久美子がいる。
特に打ち合わせたりしているわけでもないのに、ふとした瞬間に隣に居ることが良くあった。 始めは、自分から極力隣にいるようにしていた慎だったが、ある日なんとなく自分が探さなくても久美子がいる時間が増えた気がして、それから1週間程探すのを我慢した際、やはり想像通り久美子が自分から暇さえあれば隣にいるということに気付いた。
久美子が、安心の為に自分を探しているのなら、恋じゃなくても今はまだいい。
髪を梳く細い指先は常の彼女の撫で方とは全く違う儚さを漂わせ、目を開ければ恐らく引っ込んでしまうだろう、今浮かんでる筈の微笑は暴れん坊とは思えない位、優しいものだというのがわかるから。
「ぎゅーってしたい…けど、怒るだろうなあ…」
ふわふわと呟かれた言葉に、目を開けてハッキリキッパリ「勘弁してくれ」と言いたくなるのをグッと堪えてタヌキ寝入りを決め込む。
慎の経験から言って、甘いえさに釣られて起きると「生殺し」という地獄が待っているのだ。
それなら、今の状態に甘んじて…物足りない久美子が、もっと構ってくれるよう仕向けた方が長い時間を共有できて嬉しい。
自分を探してまで傍にいたいと思ってるくせに。
これで、あの爽やか野郎を好きだってんだから、タチ悪ぃっつーの…。
つきそうになる溜め息を飲み込んで、ある意味常に生殺しだと思いながらも慎は、もう少しだけこの感触を堪能することにした。
Fin
久美子さんの拷問(笑)。
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