「さむ…」
吐く息は白く、煙のように空中で拡散して消えた。
今日は土曜日で、相変わらず問題ばかり起こす受け持ちの生徒達も寒さの所為か大人しく帰路についたようで、帰宅後の予定も無く久美子はすっかり雪景色となった庭を見ながら縁側でお茶を飲んでいる。
「お嬢~!」
呼ばれて振り向けば、ドスドスと近頃また体積が増したように見えるミノルが、ニコニコと満面の笑みで何かヒラリとした小さな紙切れを持って走ってきた。
「どうした?」 「お嬢のお待ちかねのもんが届きやしたよ!」
手を出せと言われ出した手に、握らされた…エアメール?
エアメールを待ってた覚えなんかなかったけど…。
そこまで考えて、手の中にある赤と青と白の封筒に書かれたアルファベット文字の癖に、見覚えがあることに気付く。
脳裏に浮かぶ、ひと房の金髪。
慌てて破かないように、丁寧に開封すると2枚の便箋と1枚の写真。 写真が好きではない奴だから、多分不意打ちで撮られたのだろうそれは、薄汚れたTシャツにジーパンといった軽装で大きな目をカメラに向けて、相変わらずの無表情の中ちょっとだけ驚いた顔をしていた。 脳裏に浮かんだ金メッシュはもうそこにはなく、記憶に残る彼よりも幾分成長して男らしさが漂っている。
次いで便箋をそっと開くと。
『ヤンクミへ
こっちは暑い。 今頃日本は冬かと思うと、雪が懐かしく感じるよ
また雪遊びしすぎて風邪ひかないようにな
じゃあ、また
沢田 慎』
数行の、そっけない手紙は言葉少なだった彼らしい。
卒業後すぐに遠く暑い地へ旅立った彼は知らないが、あれから幾度か過ぎた冬に一度も雪遊びなどしなかった。 たった一度だけ、2人で雪だるまを作って…張り切りすぎて翌日2人共風邪を引いて。 大江戸で並んで寝込んだのが苦しいのに楽しかった。
雪が降るとその時々の生徒が遊ぼうと誘ってくれるのに、優しい思い出が邪魔をしてどうしてもあそぶ気になれなかったのだ。
「お前がいなきゃ、あたし雪であそべないんだぞ…さわだ…」
呟いた名前が、息と一緒に宙に散る。 数年を経てやっと届いた1通の手紙に、書いた、久美子からの返事。
『沢田 へ
こっちは寒くて凍えそうだ!
雪で遊びたいけど、 一緒に寝込んでくれる奴がいない所為で遊べない
いつになったらあたしは雪で遊べるんだ!
山口 久美子』
「…もう十分我慢したんだから、いい加減帰ってきやがれ!」
文句を言いながらポストに投函したエアメールに、こっそりと一つ口付けを落として付けたリップスタンプの効果に期待して、寒空の下久美子は一緒に寝込みたい誰かを思った。
Fin
そういえば、アフリカ在住の頃を書くの初めてです。 何気なく慎⇔久美子。 告白後か未告白かはおまかせしますー^^
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