「男希望?女希望?」 「どっちも!っていうかどっちでも、か?」 「ふーん。じゃあ何人?」 「んー…何人でもいいけど、兄弟いるといいかなあ」 「…つーか、何でオレがお前にこんなこと聞かなきゃならねぇんだよ」 「そんな質問はないぞ沢田っ」 「うっぜぇ…」
口をついて出た文句に、膨れた久美子が軽く拳骨を落とす。
うんざりした慎の表情とは裏腹に、どこか楽しそうな久美子は「早く次の質問しろ!」と赤い壁を背にベッドに座る慎を見上げて正座で待っていた。
そもそも何故こんな会話になっているのかだが、話は昨日の黒銀学園に遡る。
久美子とは腐れ縁で結ばれている黒銀教頭猿渡、の、妻であるサチコにまたもやお見合い写真を持って職員室の久美子を名指しで訪ねられ、今回ばかりは何が何
でも断りたかった久美子はつい先日アフリカより帰国して大江戸に居候中の慎を頼りに「婚約者がいますので!」と断ったのだが。
それなら白金時代から知っている自分達が是非仲人をさせていただきたい。 慎と久美子と自分達夫婦で詳しい話を聞かせてくれないと引き下がらない!
とサチコにメガネの奥の鋭い疑いの眼差しで睨みつけられ…後には引けぬと元気よく承諾してしまったのが始まり。
しかもその一部始終を受け持ち3Dの生徒である矢吹隼人と武田啓太に見られており、とある事情ですっかり慎に心酔しているお馴染み5人が、「沢田さんを逃
したら後はない!」と鼻息荒く結婚に向けて聞かれるであろう質問をPCやら携帯やらで検索しまくり久美子に押し付けた。
この真剣さが勉強にも向けられれば言うこと無いのに…。
と受け取った久美子が思ったのは致し方ないことと言えるが、そんな経緯で現在久美子の部屋で無理矢理巻き込まれた慎と質疑応答をしているのである。
「ホントにこんなこと聞かれんのかよ」 「わからん!」 「…おい」 「勉強でも予習が大事だって言うだろ?同じことだ同じこと!」 「絶対ぇ違うし…」
元より久美子に思いを寄せている慎としては、このまま結婚が現実のものとなっても一向に構わないのだが如何せん相手は久美子だ。
多分自分のことは「家に沢田が居てラッキー♪」くらいにしか思ってないだろうという予想ができるくらいには、悲しいかな慎は現実的だった。
「さーわだ!次はあ?」 「…家事は夫にどのくらい手伝って欲しいか」 「…で…できるだけ…?」 「お前は見合い云々の前に花嫁修業をしろ」 「うるっさいなあ~沢田は一人暮らし長いんだから徐々に教えてくれればいいんだ!」 「ハイハイ、結婚したらな」
すっかり慎と結婚する妄想を繰り広げてるらしいが、今まで散々久美子の妄想っぷりを見てきている慎はそんなことぐらいでは浮かれも出来ずにさっさと流す。
「次。結婚してからも好き、愛してると言って欲しいか」 「てっ照れるなぁ…沢田は絶対言わなさそうだけどさあ」 「…別に、奥さんが言って欲しけりゃ言うし」 「えええええーーーー!!?」 「ンだよ」 「さっ沢田が言うとこ想像できねぇーーー!!あっははははは!!」
ケッタケタと涙を流さんばかりに笑い転げる久美子に多少ならずもカチンと来た慎は、質問の束をベッドに置いて徐に久美子の手を引き寄せ間近で視線をかち合わせた。
「あっは…な、なんだよ…」 「想像できねぇんだろ?…わかりやすく実践してやるよ」
ニヤリという擬音がピッタリ合いそうな笑みに思わず引ける腰をもやんわりと力強く抱き寄せられ逃げ場をなくした久美子は、必然的に慎と見つめあう格好になる。 ありったけの甘さを含んだ視線を向けたまま、掴んだ細い腕をそっと指でなぞり…艶やかさを全面に押し出した声で、
「…愛してる」
一言囁き、微笑んだ。
瞬間、リトマス試験紙のように真っ赤な顔に染まった久美子が力任せに慎の腕を振り解いて、そのまま言葉を発することなく転がり落ちるように部屋を飛び出していったのを、慎はしてやったりという表情で見送る。
これでちょっとは意識してくれるといいんだけど。
言った後に持て余すほど思いを込めた一言が、久美子に伝わっていることを祈った慎だが、翌週再び黒銀へとやってきたサチコさんに慎の話を振られる度に思い出して赤面する久美子の様子ですっかり慎が婚約者だと信じ込まれたということは、久美子一人の胸に仕舞われた。
慎の夢は、本人の知らぬ間に少しずつ現実に近づいている。
Fin
YOU結婚しちゃいなYO!
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