恋する貴方へ贈る百の花
042  オンシジウム/蕾のままでいて
 あぁもう、クラクラしてしまう。

 この目の前に立つ男が、自分の元を卒業して早3年が経つ。
 ということは知り合って5年。

 タイマン勝負を挑んできたり、最初の頃はそれはもうガキらしく可愛らしい突っ張り方だったように思うんだけど。
 頭を撫で繰り回したいような可愛らしさもまだ未だ時々垣間見せることはあるものの、外見的にはもちろん、内面的にえらく早い速度で男っぷりを上げてるこいつは、なんとあたしが好きだという。

 ウチの事情に首突っ込んで何度も痛い目をみたり、将来の夢をあろうことか極道弁護士になることだと言って、その為に東大主席合格なんてとんでもないことまでやり遂げた。

 実家が極道だってことだけでも十分恋愛対象にならない要素になると思うのに、私自身に継ぐ意志がないとしても周囲の関係者はそうは思わない。
 関係ないと本人が言おうと何しようと、私と付き合う=跡目候補になるってことは、頭の良いこの男ならわからない筈は無いにも関わらず、それでも私に気持ちを寄せてくれる理由は…正直、今でもよくわからなかったりする。

 女らしくもない、恋愛慣れしてるわけでもない私のどこがいいんだか…。

「何溜め息ついてんの?」
「うん…いや、別に何でもないよ」
「ふーん」

 知らず、思考がまた堂々巡りに陥って口から溜め息が漏れてたらしい。
 比較的単純な私の思考回路なんて、こいつにはお見通しなのか突っ込まれることもなく、一歩離れていた距離を長い足で埋めて大きな手の平が私の手を掬い取った。

「…おい」
「いーじゃん。繋ぎたい」

 キレイだけど、ごつごつと骨っぽい男の手は、体温を感じさせない無表情とは違って、内面を表わすかのように少し熱い。

「喧嘩してる時とかは、すんげー重いパンチ繰り出したり…鬼みてーに強い所も結構イイと思うけど」
「…うん?」
「こーやって手ぇ繋いだり、抱きしめたらちっこくて柔らかい所も、お前らしくて好き」
「おおお前ぇ、往来で何言いやがる!!」
「あんまり柔らけぇから、たまに抱き潰しちまいそうな気もする」
「ぅおおい!!」
「つまり、お前は自分で思ってるよりずっと「女」だってことだよ」

 さらりと流れる赤い髪の合間から、優しく細められた目がこっちを見て、ただ繋いでた手が指を絡める繋ぎ方に変わった。

「…そういうモンかね」
「そういうモンですよ」

 たまに陥る後ろ向きなアタマん中の迷路の出口は、いつもこいつが示してくれる。

 まあ、迷路に陥らせる原因ってのもこいつが多いから当然の手助けな気はするけど。

 繋いだ手が前後に振られて、少し楽しい気持ちになる。

 この男と知り合って5年、卒業して3年恋人になってもう2年。

 頼りにしてたガキは頼りになる男になり、しかも宇宙一惚れてる男になった。

 宇宙一以上、どうやって伝えたらいいのかわからないけど、多分伝えた時よりも今はもっと私はこいつに惚れてて…意外にも自分がこんな恋愛バカになるなんて、3年前の私が知ったら腹抱えて笑うだろうなーと思う。

「あーんなに可愛かったのになあ…」
「…それ誰のことッスか」
「誰だろうねぇ」

 惚れた腫れたは元より苦手分野。
 しかも惚れた男に夢中で、そいつのコトで頭がいっぱいなんて真っ平ゴメンなのだから。

 おい、沢田よ。
 あんまり良い男になってくれるな。

 そんな思いを込めて理不尽に睨み上げれば、ガン付けなんぞどこ吹く風で物ともせず丸出しのデコに寄せられる唇。

 女としての幸せに。

 あぁもう、クラクラしてしまう。

Fin

 お付き合い慎久美。
 ちょっと乙女度を高めてみました久美子さん(笑)。
 久美子さんの為なら、赤慎ちゃんは往来だろうとなんだろうとサラリととんでもないことを言いそう…と思いついた話でした。
TAKEOさんってスゴイよねっ!(そこかー!)