ありえない! ありえない! ありえない!
「山口先生、大丈夫ですか?」 「…………」 「山口先生?」 「…あっ、ハイッ!?なんでしょう!!」
顔を覗き込んできたのは、憧れの君篠原さん。 紳士で爽やかで大人で…あたしの理想そのもの、白馬に乗った王子様。
出会った時から大好きで、2人の強力なライバルに行く手を阻まれながらも一緒に合コン(という名の飲み会だけど…)行ったり、可愛いサボテンを貰っちゃったりして、近頃はふっ、ふっ、ふたりでお食事に誘われちゃったりすることも何回かあって。
なんかもしかしていい雰囲気になってる!?とか、もしかして篠原さん…あたしの事を憎からず…っなーんて!なーんて思うこともあったりなんかしてー!!
夢にまで見た篠原さんとの「お付き合い」が現実になるかもしれないことに、あたしは物凄く有頂天になっていた。
つい、ほんの1分前までは。
篠原さんに連れてきてもらったお洒落なお店で、あたしには縁がなさそうなお上品な料理を食べて…多分、高いんだろうお酒を飲んで。 割り勘でお願いします、と言っておいたのに少し席を外した隙に支払いは済まされて「じゃあ、次は山口先生がご馳走して下さい」というさりげない次回の約束まで貰うと言う、本当に夢のような時間。
でも、お店を出た所でこれまたさりげなく右手を繋がれた途端、夢が覚めたみたいに「あ、違う」とあたしの直感が告げた。
しかも…ありえない。
舞い上がる筈のあたしの気持ちは、手を繋いだ瞬間浮かんだ沢田の顔のお陰で、右手に感じる違和感にどんどん沈み込んで行き、目の前にたまたまあったコンビニを見つけてこれ幸い「すみません、お手洗いにいってきます!」とできるだけ自然さを装って右手を離した。
トイレなんて、店出る寸前に入ったっつーの。
きれいに磨かれた洗面所の鏡を覗くと、世にも情けない顔をしたあたしが映っている。
「どーすんだよ…」
さあ、どうするんだよヤンクミちゃん。
素敵な素敵な篠原さんといい雰囲気で、なんかちょっとアピールなんかされちゃったりしてるんだぞ。
こんな情けないツラ引っさげて、しかもその理由が。
「あンの野郎…」
よりにもよって、女に興味持ってるのを見たことがないあいつに対する操立てだなんて。
顔が浮かんだ瞬間「沢田に悪い」と咄嗟に思った自分を思い出して更に凹み具合が倍増する。
「悪いも何も…何もないじゃねーか!」
付き合ってないのは元より、惚れた腫れたさえ微塵もないあたしたちの清き師弟関係。
「悪い」だなんて、思う必要も何もないはずなのに。
なのに!
なんだこの罪悪感は。
すげー悪いことしちゃってるようなこの気持ちは。
「自意識過剰…」
自分で呟いて、自分で凹む。
今、デートみたいに(というかデートだろうこれは!)2人でいるのは篠原さんで…ずっと憧れて、大好きだったはずの相手だってのに、今更…会いたくて傍にいたくて手をつないだりしたいのが他の男とは。
手を繋いだりされなければ気づかなかったのに!
篠原さんの馬鹿ー!!
なーんて責任転嫁もいいところの心の叫びはどこにも吐き出しようがなくお腹の中でぐるぐる回る。
「山口先生、大丈夫ですか?」
「へっ?」
それでも大と間違われてはたまったもんじゃない、と必死に自分を奮い立たせてトイレから脱出したら、待っていた篠原さんから心配そうに声を掛けられた。
「なんだか顔色が良くないようですし…今日はこれでお送りしますよ」
えぇ、えぇ。自分が受け持ちの生徒にホの字だと気づいちまったら、そりゃ顔色も悪くなりますよ。
どこまでも自虐ネタは尽きずに、荒み切った気持ちを誤魔化す様にへらりと笑って
「すみません…ワインに悪酔いしちゃったみたいで…タクシーで帰ります」
「僕車ですから、大江戸まで…」
「いえっ!ほんっと大丈夫ですから!」
むしろ今日はこれ以上一緒に居ると罪悪感で本気で悪酔いしてしまいそうだったから、さっきまでなら小躍りする程嬉しい申し出も全力で遠慮した。
それでも渋る篠原さんの目の前で強引にタクシーを止めて、挨拶もそこそこに半ば失礼にあたりそうな勢いのまま飛び乗った。
向かうは禁断の甘い気持ちに気づいてしまった、愛しの生徒の家。
思いのほかヘタクソだったタクシーの運ちゃんの運転により嘘じゃなく悪酔いしてしまった所為で、部屋に到着した途端「お前の所為だー!!」と理由はひた
隠しにしつつ(言えるか!)わめきちらし散々お世話になってしまった後、普段無口なあたしの想い人野郎に自分がどれだけ迷惑を被ったかを切々と静かに説教
されるのは、わずか数時間後の話だったりする。
Fin
久々のSS更新がこれって。これって!
甘くなくてすいません…慎ちゃんいないしwww
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