恋する貴方へ贈る百の花
062  フロックス/貴方の望みを受けます
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
「さっわっらあ~!!開けろぉ~~!!」

 薄暗い部屋のベッドで、読んでいた分厚い本を閉じる。

 あいつに近所迷惑っていう概念はねぇのかよ。

 尚も延々と痛めつけられてるドアの耐久性を心配しつつ、溜め息をついて鍵を開くと待ってましたとばかりに、上機嫌のヤンクミが満面の笑顔で抱きついてきた。

「…っと」
「おっそいぞぉさわら!」
「さっけ臭ぇ…」

 甘い体臭にクラリとしそうになる理性が、その強烈なアルコール臭で通常運行に戻る。

「さわらあ~きーてきーて!うっぷぷぷぅ~♪」
「いいから靴脱げ」
「つぅーめぇーたぁーいぃ~~~~!!」
「…っせぇ、マジで追い出すぞ酔っ払い」

 しっかりと抱きつき、胸元にスリスリと擦り寄りながら笑ったり駄々をこねたりする姿は、酔っ払った上での行動と分かっていても可愛くて。可愛いと思ってしまう自分に溜め息が出る。

 ぶうたれるヤンクミを引き剥がし、後ろから抱え込むようにして靴を脱がせてベッドに座らせ、とりあえず水を飲ませる為にキッチンへと振り向いた背中に、ドスッという衝撃が走った。

「…おい」
「いっちゃらめぇ~!」
「水汲んで来るんだよ!離せバカ」
「やあーだっ!あたしも行くうぅ」
「…はあぁ~…」

 後ろから腰に回された手にガッチリとしがみつかれ、溜め息は深くなるばかり。
 ヤンクミを引っ付けたまま冷蔵庫からミネラルウォーターを1本取って、腹部にある手にトントンとぶつける。

「水飲め」
「飲ませろ~」
「はぁっ!?」
「飲ませてくんなきゃ飲まないモン~~~!!」
「…てめぇマジでふざけんなよ…」

 ほんっと襲ってやろうか。

 頬をガキっぽく膨らませて、べったり引っ付いたまま背中に顔を埋めてくる態度に、舌打ちしたくなるのを堪えて無理矢理正面になるよう体を回す。

 背中に息が当たってTシャツの一部分だけが熱く熱を持つ感触は、正直ヤバイものがあって体勢を変えたんだけど。
 向かい合ってるほうがヤバイってことに、なってから気付いたけどもう後の祭りだ。
 こうなったら心頭滅却、理性を総動員してどうにかするしかねぇ。

 ぐふぐふ笑うヤンクミを引きずってベッドに戻り、できるだけ意識しないようヤンクミの顎を引っ掴んで半ば無理矢理水を飲ませる。

「ぷっはあー!お前ーレデーに対して乱暴だぞーぅ?」
「夜中に男の部屋に転がり込むレディーなんかいねぇよ」
「さわらのくせにーぃ!」
「うるせぇ、水飲んだら送ってやるから帰れ!」
「やーらもんっ☆きょーはさわらんちに泊まるって言ってきたんらもーん!」
「………ハァッ!?」

 オレの頬を指で突付きながら小首を傾げて言い放った言葉に、唖然として責め立てるよりも頭を抱えたくなった。
 お嬢がお嬢なら大江戸も大江戸だ。

 大事な一人孫を男の家に放り込むって…信用なのか、身内扱いなのか訳が分からない。
 大体、こいつに惚れてるっつーなら迎えに来いよテツさん!!

 内心で八つ当たりして、調子外れの鼻歌まで歌いだしたヤンクミはまだ飲むつもりなのか、買ってきたらしいビールとつまみをガラステーブルに置いて行く。

「さ!さわらっ、飲むぞぉ!」
「…オレ未成年なんスけど…」

  力なく呟いた言葉は当然のようにシカトされ、それから朝まで延々とベタベタ触られた挙句篠原とどうしたこうした、なんて話まで聞かされ疲れ果て、怒る気力 さえも沸かず。結局一睡もできなかったオレはベッドで大の字になって爆睡する女を見ながら、ぐったりと床に寝そべった。

 酔っ払っているからこその無意識さで、なんの警戒も無く胸にオレの頭を抱きかかえたり擦り寄ってきたり。

 オレは今日ほど自分が男だと意識したこともなければ、自分を手放しで「良くやった」と褒めたい気分になったのも初めてだ。

 ホントもう

「勘弁してくれ…」

 起きてまたうるさく騒ぐだろうバカ女に、どこまでも深い溜め息をついて目を閉じた。



Fin

でも結局全部久美子さんがやりたいことはやらせちゃう慎ちゃん。
らぶいちゃばっか書いてるうちには珍しい、完全慎→久美設定でした。