恋する貴方へ贈る百の花
085  ゼラニウム(赤)/君が居て幸福
「おいそこのサワダクン」
「…なんでしょう」
「ちょっとこっちいらっしゃい」

 幾度と無く待ち合わせをして、通いなれた公園。
 今日も今日とて本を読みながら久美子が来るのを待っていた慎は、唐突に後ろから掛けられた声にちょっと驚きつつもポーカーフェイスを保ったまま返事をする。

 ここからは2つある入り口の両方が見えるというのに、この女はどこから入ってきたんだか…。

 もしかしなくてもそこは立ち入り禁止の芝生じゃないか?と思いながらも、今更そんなことを気にするようなタマでもない。
 木漏れ日の差し込む木の下に腰を下ろしてニコニコとこちらを見る久美子の隣に促されるまま座ると、学校仕様ではないおさげを解かれた髪をさらさら靡かせて肩に凭れ掛かって来た。

「…本読んでもいい?」
「だーめ」
「お前そのまま寝るんじゃねぇだろうな」
「寝っませ~ん…あー気持ちいい…」

 そよ風で揺れる木漏れ日は、規則性の無い光で自分達を照らす。

 時々久美子はこうして、いつもの騒がしさを潜めてただ黙って慎との時間を過ごす時を好んだ。
 それは学校に居る時とは対照的で、大江戸にいる時と似てるようで居て、少し違う。
 全てを委ねる様に、一切の気負いを投げ捨て無条件に甘える恋人仕様の久美子の姿。

 右半身に柔らかい重みを感じながら、先程却下を下された読書を再開すると、ページをめくる音にちらりと視線を寄越した久美子が唇を尖らせた。

「さーわだー」
「んー?」
「こっち向け」
「…なるほど」
「なんだよぅ…」

 命令されて振り向くと小さなキスを与えられて、拗ねた顔に「構って欲しい」という欲求を見つける。

「それでココ、ね」
「…っていうワケじゃねぇけどなっ!」
「手は?」
「全部!」
「全部はちょっと…見られてぇの?」
「そーいう意味ではなくてだな!」

 可愛らしいスキンシップを求める彼女の言葉の揚げ足を取って、わざと大半が夜の中行われるいちゃいちゃを示唆してみれば、案の定頬を染めて睨んできた。

「ま、それは冗談だけど」
「当ったり前田のクラッカーだ!!」
「親父ギャグで萎えたし」
「んなあっ…!」
「ばーか」

 ジャージにメガネでも萎えることはないのに、これくらいで萎えるわけないだろ?と意味を込めてちょっとの憎まれ口とお返しのキスをひとつ。
 機嫌がコロコロよく変わる久美子はそれだけで上機嫌に戻ってむふふと笑う。

「たまにはいいよな~公園」
「で、いちゃつくのも」
「…否定はしない」

 恥ずかしがりの久美子は、外でいちゃつくことなどできないけれど、閉鎖的な部屋でばかりじゃなく開放的に甘やかされることを実感したかったらしい。

「好きだぞ沢田!」
「オレも好きだよ」

 可愛い事を言う久美子の頬にキスをして返事を返すと、嬉しそうに鼻にキスを返された。
 周りから見えないのを良い事に、ちょっとだけ長いキスも堪能すると、風に乗った緑の匂いと、久美子の甘い香りが混ざり合って慎の鼻を擽った。



Fin

やー意味もなくらぶってみました…。
近頃黒かったり甘くなかったりへたれってたり喧嘩してたりとイレギュラーばっかり書いてたので、らぶいちゃ魂が噴出(笑)。