アヴォイデッド・キス
<前編>
 9月になり、肌寒くなってきた。
 雨も続いていて、晴れればいいね、と話していたこの日。

 空は快晴。
 夏のような暑さ。

 そんな天気に恵まれた、結婚式。



アヴォイデッド・キス
<前編>



「準備いい?」
「いいよ~…つっても特に持ってくもんもねぇし」
「それでも何か忘れそうだから聞いてんだけど」
「…ねぇよっ!」

 知り合って7年。
 付き合って4年。
 入籍して、3ヶ月。
 一緒に暮らし始めて2ヶ月が経っていた。

  本当は式は挙げないで入籍だけで済ませよう、と2人で話していたのだけど付き合い始めた年に始めた貯金も丁度良く貯まっていたし、一生の記念だから挙げて おけと沢田の両親やうちのおじいちゃんに言われてそれなら簡単に挙げようか、となったのが4ヶ月前だから怒涛の日々だったように思える。

 招待状などは一切出さずに、電話やメールで招待したのだけど、クマの店で偶然会った内山・南、野田に「暇だったら来い」と言ったら「どんだけ適当なんだよ!」と怒られた。

 披露宴もしない本当に挙式だけのことだから、気軽でいいかと思ったんだけど…ラーメン食いながら誘うようなことでもなかったらしい。

 妙な所ロマンチストなんだから…我が元生徒ながらめんどくせぇ奴らだよホント。

「何溜め息ついてんの」
「ん~あいつらに話した時のこと思い出してた」
「あぁ、テキトーすぎるって?」
「そう」

 タクシーの後部座席に並んで座ってる沢田が、あたしの話を聞いて思い出したのかフッと笑う。

「なんかまだ実感沸かないなー」
「…オレは結構緊張してるけど」
「は!?沢田がか!?」
「お前、オレのことなんだと思ってんだよ」
「いやぁ…お前が緊張してるとか、あんまり想像つかねぇっていうかさー」
「今だから言うけど、三代目にお前と付き合う挨拶行った時もかなりテンパってた」
「えぇ~!!?」
「心底意外そうだな…」

 付き合って少しした頃、沢田がおじいちゃんに挨拶しに来た時は、飄々としてるようにしか見えなかったのに…沢田も人の子だったんだな、と妙に納得した。

「あ、でもあの時さ…実はおじいちゃんもすっごい緊張してたんだって」
「…三代目が?」
「うん。そうは見えなかったろ?」
「だな」

 クスクス二人で笑い合って、他愛もない話をしてるうちに着いた会場の支度部屋の前で「じゃあ、また後で」といって沢田と別れる。
 ウエディングドレスを着せられた後、3人の女性達に化粧やヘアメイクによって鏡の中にいつもと別人みたいになったあたしが映っていて、嬉しいけどなんだか気恥ずかしい。

「お姉ちゃん、入っていい?」
「いいよ~」

 ドアの外から少し遠慮がちな声が聞こえてきて、なつみちゃんがひょっこりと顔を覗かせた。

「わっ!可愛い!お姉ちゃん綺麗~!」
「そ、そうかなあ?」

 知り合った頃よりもずっと大人っぽく綺麗になった彼女に褒められ、「私も早く結婚したいな~」と羨ましげに言われて、ついつい赤くなりつつ答える。

「沢田は?」
「お姉ちゃん…そろそろ名前で呼びなよ、同じ苗字になっちゃうんだから」
「癖が抜けなくて~…えへへ」
「んもー。お兄ちゃん支度終わってさっきからウロウロしてるけど、終わったらすぐ出てくる?」
「あ、うん。え、もう終わったのか!?」

 びっくりして振り向きそうになったのを、メイク担当の人に慌てて窘められ鏡越しになつみちゃんを見ると、笑いながら「男の人はメイクしないもん」と言いながら手を振って部屋を出て行った。

 支度が終わって部屋を出ると、支度部屋と同じ階にあるロビーのベンチに腰掛けた沢田が、飲んでいたコーヒーをゴミ箱へ捨ててゆったりとあたしの目の前に立つ。

 光沢あるグレーのタキシードに、ゆるく固められた髪の沢田に思わず見惚れていたら、ふわりと微笑を浮かべた沢田が少し屈んで、「すげぇ綺麗」と額を合わせて照れたように呟いた。

「お前なんでも似合っちゃうなぁ…」
「惚れ直した?」
「うん。かっこいいぞ旦那様!」

 ニッと笑って答えたあたしのほっぺたに片手を添えて、

「キスしてぇけど、もうちょっとオアズケか」

 口紅取れちまうからな、と親指で唇のすぐ下を撫でられ顔に熱が集中するのが分かり、慌てて下を向いて誤魔化した。


**********


 下の親族控え室まで沢田と一緒に向かうと、わいわい騒がしい声が聞こえて思わず笑顔が浮かぶ。
 部屋前のそんなに広くもない廊下には、今は着ていない学ラン姿で一緒に時間を過ごした奴らがわんさかと、あの頃と同じ様に楽しそうに笑っていた。

「あっ!来た来たー!」
「しーん!ヤーンクミー!!」
「なんだよ全員集合か?お前ら、よっぽど暇なんだな!」
「おっまえ、オレ達がどんだけ頑張って休んだと思ってんだ!」
「うっちぃカレンダー通りじゃん、休み~」

 ぎゃはは、と溢れる笑いは変わらない。
 あったかい気持ちに包まれて沢田を見上げると、珍しく感情を表に出した笑い方をしている姿が目に入って、なんだか更に幸せが増す。

 野田が持ってきたデジカメを南が、ビデオカメラを野田が、まだ始まってもないのに散々取り捲ってる時に、先にリハーサルをする為にあたし達は先にチャペルへと向かった。



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あれー…1話完結予定だったんですが…。
思い出してる内にあれよあれよと。
色々突っ込んじゃいけません(笑)。