「あれはないで、ヤンクミ」 「そうですよ山口センセ、あれはないです」 「…す、すみません…」
結婚式を終え、数日。 仕事帰りに携帯で呼び出され川嶋先生と藤山先生に飲みに連れてこられたあたしは、行きなれた馴染みの店でジョッキを両手で持ち、小さく肩を窄めて謝っていた。
大きくこれ見よがしにつかれる2つの溜め息と愚痴は、とても「今は「山口」じゃなくて「沢田」なんですけど」と言える様な雰囲気じゃない。
それと言うのも。
「「ブーケ飛ばしすぎ!」」
という小さいようで大きい理由からである。
「あたしだってあんなに飛んでいくと思わなかったんですよぅ~」 「軽く投げればいいのよ軽く投げれば!」 「アタシら独身女性の頭上を高々飛ばすってどないやねん!」
チャペルの前で幸せいっぱいに放り投げたブーケは、階段下で待っていた彼女達の頭上を高く飛び越え、なんと沢田の親類の小学生の女の子の手に渡った。
「っていうか、もっと遠くに居てくださいよお2人共…」
あたしがバッチリ飛距離を伸ばすことなんて、付き合いの長い2人であれば分かるだろうことなのに、と思って小声で言い返すとギロリとアイメイクで綺麗に縁取られた鋭い眼光が突き刺さってくる。
「係りの女が前出ろ言うたんじゃ!」 「私達はちゃ・あ~んと後ろに行こうとしたんですけど」 「ガンガン押されてどうしようもなく…」 「まだおばちゃんパワーには敵いませんでしたよ…」 「お2人が負けるなんて…」
どんだけすごかったんだろう、その係りのおばちゃん。 カクテルではなく、ジョッキでダンダンテーブルを鳴らしながら心底嫌そうに顔を歪めてることからして、さぞかし屈辱的だったに違いない…。
ごくり、と喉が鳴った所で藤山先生の綺麗な手がつまみの皿が浮き上がる程の強さでバンッ!といい音を立てた。
「あーもー行き遅れたら山口センセの所為ですからね!!」 「アンタら、も一回結婚式せえ!」
そんで今度はブーケ2個投げろ!と据わった目で迫ってくる2人を宥める為、あたしはその日全く酔うことができなかった。
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後日、出来上がった結婚式の写真で、ブーケを放り投げた瞬間の1枚に映っていたものは…。
両手を上げたあたしの後姿と、高く飛んだブーケを見上げる慎、参列者など…全員の姿。
投げられたブーケの姿は案の定写っては居なかった。
Fin
これにて終了です。 お付き合いありがとうございました! 写真はもちろん事実で…ほぼ全員が写っていたので、かなり引いたアングルの写真だったにも関わらず、ブーケの欠片さえ見当たりませんでした(笑)。
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