特別な人 後編
<僕達ライバル!続編>
 それからオレ達は不貞腐れる隼人をヤンクミの前で「今日は合コンだから諦めろ」と騙して、放課後先回りして予定通り熊井さんの店へと向かった。

「なんだよ!こんな計画してるなら最初っから教えろよ!」

 自分の他4人が知っていたのに、自分だけ知らされていなかったのが不満らしい隼人はブーブー文句を言い続けて「隼人うるせーよ」とつっちーに背中をどつかれ、タケには

「隼人はすーぐボロだすから黙ってたんですぅー」


と軽く流されている。

「ボロなんか出さねーよ!!」
「どーだか。なんか作戦立てたって、いつも絶対隼人からバレるじゃん」
「ぐぅ…」
「事実は事実だにゃ☆」

 思い当たることは多々あるだろう隼人は、顔は不貞腐れたままだけど…さすがに言い返すこともできずに大人しくなって熊井ラーメンまでついてきた。

「「「「「こんちはー」」」」」
「おっ!お前らか。いらっしゃい!」

 普段と変わらず、昔悪かったとは思えない人の良さそうな丸い笑顔が快く迎えてくれる。
  直接の先輩じゃないけど、ヤンクミが担任という共通点がオレ達から警戒心を取り除いたというのもあるし、何より熊井さん本人の人柄があったかい兄貴という 感じで好きだった。「サワダさん」はオレ達から見れば十分男気溢れる熊井さんが「オレの自慢の親友なんだ!」と満面の笑顔で褒めちぎる程だから、やっぱり それなりには「できる」人なんだろう。

「熊井さん、オレ達いつものー!」
「あいよ!…って、まーた全員一緒か!お前らも仲いいな~」
「熊井さん熊井さん!」
「なんだ、どうした矢吹?」

 テーブルに着いたオレ達から一人カウンターに駆け寄った隼人に、慣れた手付きで注文分のラーメンを作りながら熊井さんが答える。

「今日沢田さんは!?」
「慎なら…お前1ヶ月待ちきれなかったのか~」
「だーって、ヤンクミだけ沢田さん1ヶ月も独り占めってズルイじゃないスか!」
「ははは!ヤンクミも3年分慎に飢えてっからなあ。昨日だって…」
「…オレが何?」

 どこか艶めいた低い声が熊井さんの後ろの方から聞こえそっちを見ると、少し長めの前髪を無造作にかき上げながら入り口に寄り掛かってこちらを見る男が居た。

「「「「「…………っっ!!!」」」」」
「慎!起きたのか?」
「あぁ…お陰で大分眠気が取れた」
「連日大変だな~。あ、こいつらヤンクミの今の」
「「「「さっさささささサワダサン!!!」」」」
「………」
「…どーも」

 声も出ないオレと、真っ赤になって異様にどもりながら名前を叫んだ4人を緩慢な動作でゆっくり見渡すと、口の端を少し上げた独特の笑顔で一言、返事を返すその姿は見せてもらってた写真よりも柔らかな印象で。
 薄いセーター越しにもわかる無駄の無い筋肉の付き方と均整の取れたスタイル、それにあつらえたかの様にある整った顔、全てを相乗効果にとんでもない色気と雰囲気を醸し出していた。
 気だるそうにカウンターの椅子に座ると、短く溜息をついて

「矢吹」
「はいぃっ!!」
「日向」
「にゃっ!」
「土屋」
「はいっ!」
「武田」
「ですっ!」
「…に、小田切」
「へぇっ?」
「ちょっ!竜が変な返事した!!」
「! いや、ちょっと噛んだだけ…!」

  見とれて気を抜きすぎたのもあるけど、まだ何も言っていない内にしっかりと視線を合わせて名前を呼ばれたというのに驚いて、不覚にもいつものオレなら絶対 しないような声を出してしまった恥ずかしさに体が熱くなったのを感じつつも、何故オレ達のことがわかったのか聞いてみると、沢田さんはちょっと眉を上げて 面白そうに目を細め種明かしをしてくれた。

「帰国してからずっと聞かされてりゃ、覚えるよ」
「ずっと…って」
「ヤンクミ、慎ちゃんに連日徹夜までさせといて生徒の話してんの?」
「はあ!?徹夜あ!!?」

 やっとフリーズが解けた隼人が、真っ赤な顔のまま沢田さんの隣の椅子にちゃっかり座って、その会話の内容に驚く。

 憧れの人の独占権を1ヶ月も無理矢理奪ったヤンクミの横暴な付き合わせ方に憤慨してるらしいが、当の沢田さんは先程見せた口の端を上げる笑い方で珍しいものを見るように隼人が騒ぐ様子を熊井さんにラーメン注文しながら眺めている。
 ただの水を飲む姿がこんだけ絵になる人は見たことが無い。

 さっきまで仲間のノリに着いて行けず、「品定め」をしようと頑なに凝り固まっていた気持ちが、本人を目の前にした途端…沢田さんは特に何をしているわけでもないのに、徐々にほぐされて行くのが分かる。

 もう少し。
 もう少しこの人を知ったらどうなるだろう?

 そんな疑問が沸いてきて口を開きかけたその時、店のドアが勢い良く開くのと同時に、今は邪魔にしかならない元気すぎる声が店内に響き。

「さっわだーあ!待た…せぇえ!!?」

 声を発した本人は、オレ達の姿を見つけて大口開けたまま固まった。

「げ。もう来やがった」
「空気読めない女は沢田さんに嫌われるにゃ!」
「んなことより何でお前ぇらがいるんだバカ共!!」
「「「「ラーメン食べに来たんですぅ~~」」」」
「…あたしは今まで、こんなに教え子が可愛くなく見えたことないよ…!」
「いいから座れヤンクミ」
「こいつら甘やかしたらロクなことになんねぇぞ沢田!」
「甘やかされてんのはヤンクミだよ…」
「なんか言ったかクマ」
「…なんでもねぇ」

 自分の隙をついて沢田さんに会ったのがそんなに気に喰わないのか、プンプンに怒りながら隼人とは逆の沢田さんの隣に腰掛け、隼人に「お前は向こうに行け!」と手でシッシッと追い払おうとしている。
 挟まれた沢田さんは苦笑いを浮かべながらも止める気はないようで、出てきたラーメンを黙々と食べつつ山口の頭にぽん、と手の平を置いた。

「いいからお前は落ち着け」
「だって…ってオイ沢田!大学どうなったんだ!?」
「それは受かったから春から通う」
「やったー!!さすが沢田慎だ!!」

「「「「あーーーっっ!!」」」」

「何抱きついてんだよ山口!!」
「沢田さんに馴れ馴れしくしないでよヤンクミ!」
「卑怯だにゃ!!」
「離れてくだパイ!!」

 どうやらアフリカから帰国して、改めてきちんと受けなおした大学に合格したことを喜んだ山口が、多分反応を予想してラーメンを食べる手を止め向かい合う状態にしていた沢田さんの胸に抱きつき…というよりは、それは見事にスポーン!と納まり。
 それを見ていた4人が一斉に叫んでブーイングの嵐となった。

「なんだようるさいなあ!お前ぇら帰りやがれ!!」
「「「「離れろー!!」」」」
「いーやーだー!!今日はあたしの沢田なんだぞ!!」

 変わらず沢田さんの腕の中に納まっている山口を4人掛かりで引き剥がそうと出してくる手にもめげず、自分のだと主張する山口。

 …なんだこの構図…おかしいだろ。

 傍から見るとなんともいえないシュールな絵面…。

 参加はもちろん、勢いに飲まれて止めることもできずにいると、更に発展して片腕ずつ山口と隼人に引っ張られている沢田さんがうんざりした口調で

「お前らいい加減にしろよ…」

 と疲れた声を出した。
 その言葉を聞いた途端、山口がパッと手を離し

「あたしが先に手ぇ離したから、あたしが沢田の本当のお母さんだ!!」
「大岡越前かよ」

 とかワケのわからないことを言い出したのに、動じず突っ込んだ沢田さんと得意気な山口をを交互に見て他4人が理解できずに眉を顰めていたが、それでも、今日は山口に付き合う気らしい沢田さんの様子でやっと隼人達も諦めたらしく、渋々手を引っ込める。

 一部始終を笑いながら見ていた熊井さんが、山口のラーメンを出してそれを食べ終えた後、二人は楽しそうに…というか、山口は勝ち誇った顔をしていた…手を繋いで店を出て行った。

 店を出る直前、

「おい山口」
「小田切どうした?」
「宣戦布告。オレも参加する」

 言った言葉に首を傾げる山口に、言った意味が通じたらしい沢田さんは苦笑いと「ヤンクミ、頑張ってくれよ」と一つの希望を言っていた。

 まだどんだけすごい人なのかとか、正直わからない。
 だけど、オレは初めて無条件で憧れられる「特別な人」ってのを見つけたのかもしれない。

 1ヶ月の山口独占期限が終わるのが楽しみだと、沢田さんを連れて行かれた悔しさに不貞腐れる仲間達を見ながら、オレは笑った。


Fin

竜ちゃん、メロメロまでは至らずでした~予兆はアリアリですが。
というか皆してどんだけ慎ちゃん好きなんだというバカ話になりました(笑)。