貴方に夢中 前編
<僕達ライバル!続編>
 のんびりと歩く、川縁の道。
 隼人達との待ち合わせまで数時間を潰すのに、街へ出ようかとも思ったけどなんとなく一人で店を見たり、買い物をするような気分でもなくて、行く当ても無くダラダラと景色を眺めながら散歩していた。
 そういえばここしばらく色々なことがあった所為で、周りの景色を見るなんてことすら忘れてた気がする。

 いつも騒がしい親友達と、担任と。

「あいつらといたら、そりゃー景色なんて見てる暇ねぇよな」

 楽しくて。
 まさか高校3年の3学期なんてギリギリになって、こんな楽しい高校生活を送ることになるなんて思いもよらなかった。

 少し先にちょうどいい大きさの岩を見つけて、そこへ座ろうと向かう途中で、河原の上の道路から聞くからに柄のよくねぇ声が響いてくる。

「おう、そこの兄ちゃんよぉ!ちぃーっとツラ貸せや」
「………」
「ヒャハハ!兄貴ぃ、こいつ怖くて固まっちゃってんじゃねぇスか?」
「怖がらなくて大丈夫でちゅよぉ~?」

 ゲハゲハ笑う連中は風貌から見て明らかに「その筋」の人だろうけど、何と言えばいいのか、すげぇ下品な感じ。
 オレが知る家の「その筋」の人達は…多分特殊なんだろうな、誰も彼も見た目に反して人が良さそうだったし。

 一度だけ訪れた担任の家人達を思い浮かべてから、目の前の奴らを見て思わず「はー」と溜め息をついたら、どうやらそれが癇に障ったらしい。
 馬鹿みてぇにわざとらしい笑いを引っ込めてガン付けながらじわじわと近寄ってきた。

「ンだコルァ!」
「何溜め息ついてんだ、ぁあ!?」

 こんな通りすがりにイチャモンつけてくるくらいだから、その筋にしてみりゃ下っ端もいいとこなんだろうけど…素人の高校生にしてみりゃどのレベルでもヤバイのは同じだ。
 逃げ道がないかと視線を走らせるも、敵も馬鹿なりに考えてるのか3人で囲むように間合いを詰めてくる。

 マジでヤベーって…。

 散歩が一転してサバイバル。
 後ろに逃げようにも川がある。この寒い季節に寒中水泳なんかしたらそれこそ死ぬ。

 何発か殴られたら…逃げれねー…よな。

 肉を切らせて骨を断つ、的なことを想像して、プロ相手に殴られたら肉どころか骨も断たれそうだと内心ぞっとした。
 かといって不良の端くれ。大声上げて助けを呼ぶなんてなけなしのプライドが許さない。

 やっぱりどうにかして逃げるしかない、と思ってオレの胸倉を掴み挙げる為に伸ばされた腕に、じわりと反射的に握った手の中で汗が浮かぶのを感じた瞬間、先程まで目の前の奴らがいた河原の道から、聞き覚えがある声が降って来た。

「おい、何やってんだ」

「…あっ…!」

 
低くて良く通るその声の主は、先日会った時と変わらず艶を帯びた雰囲気を纏って、この状況を見ても焦るでもなく悠然と立っている…沢田さん。

「兄ちゃん、怪我したくなかったら引っ込んでろ!」
「…ベタすぎだろそのセリフ」
「ンだとぉ!!?」

 聞かせるように堂々と大きな溜め息と共に言った言葉は、オレより頭の悪そうなこいつらを焚きつけるには十分な燃料だったみたいで、さっきニヤニヤとしていた顔はどこ落としてきたんだ、って位真っ赤な顔で今にも飛び掛らんばかりに気色ばんでいる。

「…確か小田切、だよな。大丈夫か?」
「は、い…」

 そんな奴らを気にも留めず、オレの傍に来た沢田さんが頭をポン、と一つ叩いて声を掛けられただけで、それまで目一杯入ってた肩の力が不思議なくらいストンと抜けた。
 同時に、いつの間にか詰めていた息も一気に吐き出す。

 何故だか安心して沢田さんを見ると、ニッと口の端を上げた笑顔でもう一度、今度はくしゃりと山口がするように頭に置いた手で髪を短く掻き混ぜ、オレの前に立った。
 大して年も違わない男に頭を撫でられるなんて、本当なら冗談じゃないと突っぱねる所なのに…この人だと、不思議とそれが心地よく感じる。

「てめぇらシカトこいてんじゃねーぞ!!」
「大江戸一家舐めんじゃねぇぞコルァア!!」
「は?」

  オレの問い返しをどう取ったのか、急に得意気になってふんぞり返り、いかに大江戸が物凄い組なのか、そこで幹部候補だから逆らったら日本にいられない… 等、聞いてもいないことをべらべらと話し続けていたのを、多分嘘だろうな…と思いながら聞いていると目の前に立つ沢田さんからぽつりと呟きが聞こえた。

「ふーん…大江戸一家、ねぇ」

 クッと馬鹿にした笑いを浮かべたのは、見間違いじゃ、ない。
 その証拠に、得意気に口を動かしていた奴等の顔が怒りに醜く歪んでこっちを睨み付けてた。

 いくらヤンクミの実家を知ってるからって、きっとオレや隼人と同じで、ヤンクミを通さずに家自体と付き合いがあるわけじゃないだろうに、この場慣れした雰囲気はなんだろう?

 背中を向けているから顔は見えないけど、醸し出す空気が…刺さって痛い。
 オレでさえ分かる違いに、なんでこいつらが気付かないんだ。

「あんた等みてぇなのは見たことねぇけどな」
「素人が早々見れるわけねぇだろうが!」
「ぶぁっかかてめぇ!」
「じゃ、一緒に帰る?」
「え?」
「「「はあぁあ?」」」

 無造作に首を傾げてクイッと親指で大江戸の方向を指し示す仕草さえもちょっと色気を感じて、奴等ばかりかオレまで顔が赤くなる。

 つーか、「行く」じゃなくて「帰る」?

 次いで疑問を顔に浮かべてるオレとは対照的に、奴等は何かに気付いたようで…沢田さんの顔を指差してわなわなと青くなって震えだした。

「あ…あ…わ…若大将…!?」
「…まだ残ってたのかそれ…」

 若大将て。なんつー古臭ぇネーミング…。
 覚えがあるのかガクリと肩を下げ、うんざりした風に呟く沢田さんから、一転して逃げ出そうとするように後ずさり始める3人組に、ひょい、と翳した携帯電話から機械的なパシャリという音が響く。

「あぁっ!!」
「…一応、証拠で」

 これ以上素人を巻き込むマネをしないよう「穏便に」諭して、現れたときとは正反対にヘコヘコ平身低頭で去っていく男達を見送ると、沢田さんはひとつ息を吐いてオレに向き直った。

「時間あるなら、来るか?」
「えっ…」
「ヤンクミん家」
「はいっ」

 まさか誘われるとは思わなかったから、妙な嬉しさについ頬が緩む。
 連れ立って歩く道すがら、途中の家の玄関フードのガラスに映ったのを見るまで、自分の顔が…とてもじゃないけど隼人や皆に見せられない程ニコニコしているのに気付かなかった。



Fin

いやよいやよも好きの内、ということで竜視点です。
マゾ気質…!?
そしてうちの竜ちゃんは可愛い、という感想をよくいただくんですが、書いててよくポーンと頭に浮かぶのは狼の後ろでちまちまちまちま歩きながら一生懸命尻尾を振ってるミニチュアダックス。
吠えはしないんですが、一生懸命構ってもらいたくて必死な感じ(笑)。