「ヤンクミは恋愛するべきだ!!」 「「「「はあ?」」」」
椅子に上り机に片足を掛け、昔で言えばさながら海の男の如く拳を振り上げて力説するのは、合コン大好き恋愛大好き女の子大好きな矢吹隼人。
ちなみにこんなんでも悪いと近隣では敬遠されてる黒銀3Dのリーダーの片割れ。
わけも分からずそんな隼人を見上げるのは、バカでもケンカでも仲良くつるむ武田・土屋・日向と…大事な隼人のストッパー役でもう一人のリーダー小田切竜。
そこらの奴らにはケンカじゃそうそう負けない彼らが滅法弱いのは勉強で。
現在、絶賛補習中だった。
「矢吹!バカ言ってねぇで座れ!」 「バカって言わないでくだパイ!」 「バカをバカっつって何が悪い!すーわーれっ!!」 「いってぇ!」
スコーン!と担任のヤンクミこと山口久美子の投げたチョークが、隼人のおでこでいい音を鳴らして床に落ちた。
「てっめぇ…そんなだから嫁の貰い手どころか彼氏の一人もできねんだよ!」 「ぬぁにぃ~?…生憎だがな矢吹。あたしだって彼氏の一人くらいいるんだよっ!」 「「「「「見得張んな」」」」」 「ちょっ、声揃えんな!!」
チョークで少しだけ白くなった箇所をゴシゴシと学ランで拭きながらキャンキャン吼えた隼人に、勝ち誇った顔で久美子が言うと、それまで流れを見てるだけだった4人まで加わって仲良く全否定される。
しかもその顔は妙に同情めいていて…明らかに本気にされていないのが丸分かりだ。
「山口に彼氏?」 「ないにゃ!」 「…無理がある」 「嘘はやめてくだパイ」 「ヤンクミ、無理しないでいいから」
苦笑いで反論する間も無いほどテンポよく、最後は武田に同情までされる始末。
「てめぇら…なんでそこまで信じねぇんだよっ!」
そりゃあ生徒の前で惚気など言ったことはないし、自己紹介の時には「ちなみに独身、よろしくネッ☆」も確かに入れた。 入れたが。
彼氏がいないとは一言も言ってないのに!
補習のテキストをぐしゃりと握りつぶし憤慨する久美子は、その自己紹介の一言が「彼氏募集中, よろしくネッ☆」に聞こえる事が原因だという事には全くもって気付いてはいない。
そう、メガネにおさげにジャージで色気が無い女の見本のような山口久美子には実は彼氏がいる…それも、大変美形の彼氏が。
彼女と彼の性格上、隠してはいないが言い触らすこともせず自然の成り行きに任せて過ごしているので、必然的に知っているのはお互いの家族と彼の高校時代の同級生と、当時の彼女の同僚女性2人程、それに彼に告白して「彼女がいるから」と断られた女性達くらいである。
「くっそ~…こんなことなら言い触らして歩けばよかった…い
いかてめぇら…耳の穴かっぽじって、ぃよーっく聞きやがれ!!あたしの彼氏さんはなぁ~顔だってスタイルだって頭だって性格だっていいし、ケンカだってあ
たし程じゃないにしろお前らよりは格段に強ぇ!ちょっと無愛想なのが玉に瑕だけど、心根のやっさしい滅茶苦茶イイオトコなんだからなっ!!」 「だから無理すんなって」 「嘘つくなって」 「そんな男いるわけねぇだろ」 「ヤンクミはホント妄想好きなんだから」 「…とりあえず女磨け」 「「「「言えてる~!!」」」」
息継ぎもせず一気に捲くし立てた「彼氏自慢」さえ次々と否定されては、もう久美子も反論する気さえ失っていた。 大笑いする5人に殺気立った視線を向けて黒板をバーン!!とヒビが入るんじゃないかという音を立てて叩くと、教室が一気に静まり返り…後に残ったのは引きつった顔5つと鬼神の如き顔1つ。
「もういい…この話は終わりだ!このプリントがカンペキに埋まるまで絶対帰さないからな!!」
覚悟しぃや!とどこかの姐さんチックに叫んだ久美子のその顔を見て、5人はやっと「ヤバイ」と思ったが既に後の祭りで、それから2時間の補習は地獄の静けさと共に過ぎた。
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「怖かった~…」 「あいつマジで女じゃねぇ」 「アレと付き合うって…無理だろ人間の男は!」 「動物でも無理だろ」 「で、結局独り身で妄想族にゃ」
肉体的制裁は行われなかったものの、勉強嫌いにとっては先程の「補習」程精神的苦痛を強いられる時間はないもので…ある意味ケンカよりもよほど疲れた彼ら
は、いつもの元気はどこへやらでトボトボとその元気を取り戻すべく、そして気分転換に、いつも利用する所とは違うファミレスで空腹を満たしていた。 しかしいくら疲れていても、あのおてんば…というには可愛く無さ過ぎる破天荒な教師にしっかり懐いている彼らの話題は専ら久美子の事となる。
結局の所、出来の悪い姉を持ったような感覚、と言えばいいだろうか?
「オレ達と同い年ならまだしもさ~」 「もう26だし?」 「未だ彼氏なし=年齢だし?」 「任侠一家だし?」 「…終わったな」
近隣では有名な不良だとはいえ、合コンに明け暮れたり等頑張っているお陰か、彼等も人並みには恋愛経験を積んでいるが、久美子は彼等から見ると全くの恋愛未経験にしか見えなかった。
…事実に反するとしても、そうとしか見えなかった。
「大体さあ~」
じゅるる、と行儀悪くジュースを啜って切り出したのは土屋。
「桃女の九條にキャアキャア言ってる時点でダメだって」
パチン!と扇子を畳んで「そう思わねぇ?」と順々に4人を指すと、一際深~く頷いたのは日向。
「どう考えても、恋に恋する乙女ちゃ~んだにゃ」 「で、なんだっけ?ヤンクミの妄想彼氏…えーと顔良し頭良しスタイル良し性格良しの」 「無愛想でケンカ強くて優しいイイオトコ?」 「…いねぇだろそんな奴…たとえ居たとしても山口には」 「「「「捕まえらんないね!」」」」
声が揃った。
さっき久美子本人が言ったことを反芻しただけなのだが、考えれば考える程うそ臭い。 大江戸へ行ったことのある竜と隼人は、大江戸にはそんな人物がいなかったのを知っているし、憧れの君「九條」はケンカが強いようにはどうしても見えないから別人だろう。
大体、あれだけわかりやすい久美子が、彼氏がいることを今までバレずに過ごしていたことが何よりの証拠に思えた。
「やっぱ見得張ったんだろうな~」 「負けず嫌いだもんねー…え…あれ…?」 「どうしたタケ?」 「シッ!皆伏せて伏せて!」
しみじみしながら久美子の「見得」だと決め付けていた矢先、武田が突然目を見開いて背もたれにのんびりと寄り掛かっていた自分以外の4人全員を力一杯テーブルの上にねじ伏せた。 それはもう、常日頃の比較的…というより5人の中では確実に一番非力な彼とは思えぬ力で。
「…なんだよタケッ!」 「シッ!ちょっと黙っててよっ!」 「むぐぐっ!」
中でも一番騒がしい隼人は、抑えられた途端に文句を言い出して口まで塞がれている。 それから30秒程して、やっと大人しくなった隼人の口から手を外しホ~ッと息を吐く武田に、4人がまだワケも分からず伏したまま訝しんだ視線を送ると、やっと武田がとある方向をちょいちょいと指差して言った。
「ヤンクミ来たんだよ…」 「…は?そんだけ?」 「ダメッ!頭上げないで!男と居るんだってば!」 「「「「は!?」」」」 「シーッ!!」
発した言葉に即座に反応して立ち上がろうとガタガタ椅子を鳴らした面々をまたもテーブルに押さえつけ、黙らせる。
「見つかっちゃうじゃんっ!」 「ヤンクミの彼氏か!?」 「実在しちゃったの!?」 「見えねぇ!見せてくだパイっ!!」 「…お前らちょっと黙れって…」
テーブルに突っ伏して小声で言い合う不良という姿は、傍から見ると怪しいことこの上なく…チラチラと感じる周囲の視線に耐えかねた竜が注意したものの、生憎とその忠告を聞く者は誰一人いなかった。 幸いにも、久美子達が案内された場所は彼等が座る場所と、上に緑の造花を植えつけられたパーテーションで仕切られた向こう側。 一つ一つのテーブルが仕切られているファミレスというよりはカフェに近い店で良かった、と5人は心底思った。 これがいつものファミレスか熊井ラーメンだったなら、とてもじゃないが隠れる場所など無い。
「男の顔見えない?」 「葉っぱが邪魔で…あっ見え…」 「「「「「………!!!?」」」」」
「彼」の顔が見えた瞬間、見事に5人全員の口が顎が外れそうな勢いで大きく開き、マンガで言えばまさしく「ガーン!」としか表現できない表情になった。
武田は大きな目をパチパチと何度も瞬きし、 日向は何故か柄シャツの襟を意味もなく直し、 土屋は扇子をせわしなく開閉し、 隼人は開けた口そのままに固まり、 竜はあまり変化はないものの、微かに顔が赤い。
要するに全員が動揺しているのだが、逸早く抜け出したのはやはり竜で、赤い頬を手の甲で擦りながら「ないだろ…」と呟く。
それほど彼らにとってショックだった訳だが、容姿だけでそのショックを与えた「彼氏」は当然ながら、彼女の元教え子である沢田慎その人である。 当の2人と言えば、呆然と見守る現教え子に気付くこともなく、仲睦まじげに1つのメニューでああだこうだと注文するものを選びながら、時折交わす視線が…なんともいえず甘ったるい。
「昨日は鍋だったからな~」 「昨日「も」の間違いだろ」 「沢田細か……っ…もうっ!」 「間違えたらキス1回、だろ」 「こんなとこですんなよ…」 「いいじゃん…なあ、沢田って言って」 「?なんで?」 「もう1回したい…」 「ばかっ!」 「だめ?」 「…ばかさわだ………」
向かい合って額とついでに唇を寄せ小声で話す2人に、ここ店の中だけどわかってます?と突っ込みたくなったが、もちろん出来るわけが無い。
というか、隣のスペースに居る事自体が苦痛に感じる程甘ったるい2人の様子に、たまらず5人は顔を真っ赤に染めて固まったが、抑えられない興味と後学の為
(?)に誰一人視線を外すことはなく…むしろ、明らかに覗き中の犯人ってこんな顔だよね!という位顔中どこもかしこも全開で成り行きを見守っている。
「彼氏…」 「の、ようですにゃ」 「どう考えても彼氏だろ…」 「うわー!ヤンクミがいちゃついてるよー!」 「見たくねぇけど見てぇー!」
担任とはいえ、姉、いや兄貴のような…とにかくほとんど身内な人物のラブシーンを見るというのは得てしてむず痒くいたたまれないものだ、恥ずかしすぎて。 それでも目を離せないのは、彼等がやっぱり好奇心旺盛な男子高校生だからだろう。 隣に店員が注文を取りに来た所で2人の距離は普通に戻り、店員が去った後にまた普通ではなくなった。
「…でな、全っ然信じてもらえなかったんだ!」 「ふーん?」 「挙句の果てに女磨けとかさー妄想だとか言いやがって」
どうやら現在の話題は、先程補習中に交わした自分達との会話らしい。 プリプリ怒りながら身振り手振りを交えて慎に訴えているが、妄想の産物扱いされた本人である慎は、涼しい顔で久美子の話に相槌を打っている。
「もうっ!悔しくないのかよ慎!」 「別に?」 「何でお前はそんなに淡白なんだ…」 「物足りないなら今夜辺り頑張るけど?」 「は?」 「明日は補習ないしな、お前」 「…え?明日?」 「立てなかったら風呂も全部入れてやるよ」 「……んなー!!?」
ぼふーっ!と爆発でもしたか?というような赤面っぷりで慎の「頑張る」意味を理解した久美子は、無言でパクパクと口を動かすばかりで二の句を告げない。 隣で聞いている5人は5人で、慎と久美子が「そういう関係」なのを知ってしまって、倍増したいたたまれなさに悶絶していた。
「真実って時に残酷だよね…」 「担任の夜の事情とかいらない情報すぎる…」 「てゆっか、なんであんなカッコイイ人がヤンクミ?」 「「「「「………」」」」」
武田の言葉に、全員が無言で顔を見合わせ…恐らく同じ想像をして、赤かった顔を青くする。
「まさかぁ…」 「いやでも、あの顔なら女なんて選り取り見取りじゃん…?」 「好き好んでヤンクミとか…なあ?」 「どっぷり浸かってるっぽい、よね。ヤンクミ」 「「「「「………」」」」」 「…ヤバくね?」
慎が在学中から想いを寄せていて、アフリカから帰ってからやっと告白して、その後も返事を散々待たされた挙句ようやっと付き合い始めたという経緯を知らな
い彼等は、まさか慎の方が熱烈に求愛したとは夢にも思わず、恋愛にうとい久美子が百戦錬磨(に見える)の慎に騙されているか、からかわれてるようにしか見
えてなかった。
「…どうする?」 「つってもなぁ…」 「とりあえず見てるしかなくね?」 「だよなあ~」 「…つーか思いっきりデバガメだろこれ」 「「「「人助けだって!」」」」
最後の竜からの至極もっともな突っ込みは、彼らの正義感という名の好奇心に打ち消され、覗き…もとい、「ヤンクミの彼氏の見極め」は続けられることになった。
「あ…」 「どうした?」 「いや、うっちーが来週の金曜クマの店で飲みすっから、お前連れて来いって」 「同窓会か?クマの店貸切されてばっかだなあ」 「同窓会は来月やるっつってたろ」 「あ~そうだっけ」 「…歳か?」
「何ー!?」と憤慨する久美子を余所に、聞こえて来た会話の中聞きなれ始めた名前が混じってる事に気付く。
「クマって…熊井さん?」 「同窓会って…この前ヤンクミが言ってた、白金?」 「…相手の奴、白金の生徒だったっぽいな」 「ヤンクミの前の赴任先って…だよ、な?」 「ってことは…」
「「「「元生徒ぉ!!?」」」」
「うわあっ!!…お、お前らなんでぇ!?」
「…バカ」
連想ゲームのように久美子達の会話から察した結論に、声を抑えることも忘れて立ち上がり叫んだ4人と、突然の大声に驚いた久美子がこっちを向いて目をまん丸に見開くのを見ながら、気付かれたら元も子もないだろ…と呆れた呟きを吐く竜が居た。
「お前の今の生徒?」 「うん、そうそうだけど…って、なんでココにいるんだよ!!」 「公共の場でいちゃこいてる担任に言われたくないにゃ☆」 「覗き見してやがったくせによく…そうだ!お前ら目ン玉かっぽじってよ~~~っく見ろ!」
前触れ無く現れた教え子達の姿にしばし仰天というよりは呆気にとられていたが、ハッと補習中の出来事を思い出して、開き直って騒ぎ出した5人をビシッと指差し、逆の腕で慎の頭をガシッと抱えて叫ぶ。
「これがあたしの彼氏さんだ!!」 「…いてぇ」 「見りゃわかるっつの」 「彼氏じゃないって言われた方が恐ぇーよ」 「ヤンクミ、そんな乱暴なことしちゃダメ!」 「乱暴なのは今更だにゃ」 「おい久美子…いいから離せ」
加減無く頭を抱えられた慎は、とりあえず絞まらないように自分で位置を調整しているものの、そんじょそこらの女性の力とは違う所為で、苦しいのには代わりは無い為外すよう促すが、意識がこっちを向いてないからか一向に離す気配がない。 仕方無しに顔を久美子の体の方へ向くように変え、ちょうどよく口元にきた柔らかな胸の膨らみの横側をぱくりと甘噛みした。
「にゃあっ!!」
当然、この状況で胸を横から食まれるなど夢にも思っていなかった久美子は奇声を上げて手を離し、一部始終を見ていた5人は眼前で起きた「やたらと美形な男に担任の胸が噛まれる」なんていう衝撃的な映像に、またも赤面して固まる。
もう今日は赤くなったり青くなったりしすぎて明日体調崩しそうだ、と思う黒銀メンバー達だったが…2人のやり取りを見ていると、心配したように久美子が騙されているような感じもせずただただ仲の良いカップルで、やはり先程同様…いたたまれない。
「もうっ!慎のエロ親父!」 「年下だけどな」 「いいんだよお前は年寄りくさいんだからっ」 「年下だけどな」 「うるさいっ!!」
そんじょそこらにいないような美形を捕まえて「エロ親父」だの「年寄りくさい」だの遠慮なく文句を言う久美子に、いつもの笑みで聞き流す慎より現生徒が慌てだす。
「ちょっとヤンクミ!彼氏にそんなこと言っちゃダメだろ!」 「え…た、武田?」 「そーだよっ!折角山口と付き合うなんてムジョーな男もう出てこねぇぞ!」 「「無謀」の間違いにゃ」 「それだ!ビボー!」 「ある意味合ってるけど「むぼう」だってば」 「おい、話ずれてる」
段々おかしな方向へ行きそうになる話を竜が引き戻すのを、懐かしむように見ていた慎が不意に立ち上がっていた久美子の腰を引き寄せて、ニヤリと口の端を上げた。
「どっちかっつーとオレがベタ惚れなんだけど?」 「「「「「ぅえ…!?」」」」」 「お、おい、慎」 「告白した途端に逃げやがるし」 「慎!」 「返事は結局3ヶ月待たされたし」 「慎ってば!!」 「何回か鳩尾くらったけど」 「わああぁ!」
言うなー!と叫んで口を塞ごうとする久美子の手を両手で包み込んで引き下げ、かがんだ久美子と至近距離で見詰め合って、最後に。
「そんなとこもオレには可愛いんだけど」
挙句、包んだ指先にキスを贈った。
余りに気障ったらしい言葉と仕草は、多分この目の前の男以外がやったなら鳥肌が立つばかりだろうに、整った容姿と無駄に放出される色気と、白金出身だとは思えない洗練された雰囲気が、行為を安っぽくなく自然に見せていた。
とはいえ、慎がされたらしい久美子からの仕打ちは、普通の男…例えば自分達であればお付き合いは是非ご遠慮したい、と思うような内容だったのだが慎には笑い話で済む程度の事らしく、現にバラされて慌てる久美子を見る目はどうにも柔らかく…加えて、艶っぽい。
そんな中、お馴染みの時代錯誤な着メロが鳴り響き、「うちからだ」と慎に断ってから通話ボタンを押し何言か話して切る。
「慎、テツがいい肉入ったから食べに来いって」 「んじゃお邪魔する」 「それじゃあたし達は帰るけど、お前ぇら大人しく帰れよ!」 「山口は捨てられないように女磨いてくだパイ!いてっ!!」 「余計なこと言わないで素直にお返事してろ!ほらお前ぇらもお返事は!?」 「「「「「…はーい」」」」」 「よーし、じゃあな!登校日遅刻すんじゃねーぞ!」
まだ何だかんだと言いたそうな久美子の横で、慎も片手を上げて挨拶をするのに5人全員が珍しくペコリと頭を下げた。
支払いを済ませて、テイクアウトしていたらしい商品を受け取って、じゃれあいながら仲睦まじく街を歩き遠ざかっていく2人を店内から覗く。 釣り合わないと思っていたけど、こう見てみれば我らが担任も中々だ。
「ホントにヤンクミに彼氏がいたとはね~」 「つーかバカップル以外の何者でもないにゃ」 「ま、ヤンクミには勿体無いかっこよさだ…」 「捨てられたら凹みそうだよなー山口!」 「…とばっちり来るのこっちだぞ」 「「「「「………」」」」」
本日数度目に顔を見合わせる。
凹むだけならまだしも、機嫌も悪くなると一番被害を被るのは自分達。
そしてあの人間的には大変すばらしいが、色気も素っ気もない担任教師にこれからあの色男以上のイイオトコが現れるかと考えれば…想像に難くない。
「とばっちりだけは避けたい、よね?」 「ほんの少しでも色気が出ればなんとかなる、多分!」 「…なるか?」 「「「「なるってことにしとくの!」」」」 「というわけで~後が無い崖っぷち山口の為に!」 「「「為に!」」」 「ヤマグチセンセーちょこっとお色気増やそう作戦開始にゃ!」 「「「にゃー!」」」 「…大丈夫かよ」
自他とも認めるラブラブっぷりの慎と久美子にはある意味迷惑以外の何者でもないのだが、先程まで散々2人の甘い雰囲気に当てられていたのも忘れ、大好きな
担任教師の幸せの為に、(余計な)一肌脱ごうと決めた5人はこの数分後、あまりに騒がしくして店を追い出される事となった。
Fin
第一回キリ番「591」をGETされた潤様からのリクエストSSです。 『慎クミ+黒銀で、隼人と竜は久美子のことが好きではなくて、「ヤンクミに彼氏がいるわけねぇ」と思っているような状態で慎クミの激甘シーンを見てしまうという設定』という御指定でした! 教師というよりはお姉ちゃん的存在として認めている黒銀…と思いながら書きましたがいかがでしたでしょう~?
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