君と症状<君熱中症>
「オレ、お前のこと好き過ぎて怖いんだけどどうしたらいい?」
「はあ!?」

 沢田慎は、最近の…といっても自分が知ってる範囲だけだが、男子高校生の中では寡黙な方だと思う。
 熱くなってる時は別としても、普段滅多矢鱈に感情を顔に出すことはないし、ましてや女に対して甘く愛を語るなんて想像もつかない。というより、知り合って5ヶ月になるが女に興味を持っている所を全く見たことがない。

 そんな沢田慎が、一体自分に何を言い出したのか久美子は全くもって理解できなかった。

 脳内が「?」で一杯の久美子の様子がわかってるのかわかってないのか、愛を語ってるらしい当の本人は照れるでもなくいつものポーカーフェイスのまま、熱の篭った目でじっと久美子を見つめている。

「なっななななに言ってんだ沢田!?」
「オレお前のこと食べちゃいたいくらい好きって言ったの」

 言ってない。
 断じて言ってないぞ沢田!!

 
しかしそれは口から言葉になって出て行かない。
 知らず握り締めた手にはじんわりと汗が浮かび、グラウンドで遊びに興じる3D生徒の喧騒はいつしか耳にも入らず、世界に二人だけのような錯覚さえ起きた。
 校舎脇にあるベンチに座っている沢田を呼びに来たついでに、一休みしようと隣に座っていた久美子は次第に近づいてくる慎の整った顔を避けることも押し戻すこともできず、ただ息を詰めて見つめている。

「なぁ…食べていい…?」

 至近距離で、吐息が掛かる距離で聞こえる掠れた声は体内に眠った何かを呼び起こそうとするように久美子の鼓膜をざわりと撫でた。

 突き破りそうな音を立てる心臓にぎゅうっと目を強く閉じた所で、ひざにドサリという軽い衝撃。

「へっ!?」

 今の今までの雰囲気からはおおよそ予想の付かないそれにパチッと目を開けるとそこにあるはずの慎の姿はなく、視線を下げたら膝の上に乗る見慣れた漆黒の髪と、金メッシュ。

「あの…さ、さわだ…?」

 声をかけて肩を揺すれば、常には無い荒い息があって。

「わー!!沢田しっかりしろー!!」

 さっきまでの動揺は彼方へとすっ飛んで、慌ててそこら辺にいた内山と南を呼びつけて保健室に運ばせた所、

「熱中症やな!」

 養護教諭の川嶋からそんな診断が下された。

「ねっちゅうしょう…」

 それならアレは。
  沢田慎らしくないあの「愛の告白」は熱中症の為せる業だというのは火を見るよりも明らかな話なのだけど、散々動揺させられて不覚にもときめいちゃった自分 が恥ずかしくて恥ずかしくて、久美子はその日から3日程慎から逃げ回る生活を送ることになり、自分が何をしたかなど到底覚えているわけも無い慎は、当然何 故久美子が自分から逃げるのかわからず首を傾げたまま3日過ごした後、「なんで追ってこないんだ!」というなんとも理不尽な久美子からのお叱りを受けるこ とになる。



Fin

追われたら逃げたいけど、追われないと怒っちゃう久美子さん。