君と症状<君虚言症>
「好きじゃねぇよ」

 何度質問をしても、返って来るのは同じ回答。

「なーにをグズグズしとるん、あんたらは!」
「そうですよ。山口先生ホント恋愛関係ダメですよねぇ~」

 白金時代の同僚二人に呆れた声を出されて、久美子はビールを一口グビリと飲んだ後唇を尖らせて反論する。

「そんなこと言ったって、全っ然相手にしてくれないんですよぉ!」

 一番最初の教え子が卒業して、3年。
 その間在学中から仲良しで親友だと自負していた沢田慎がアフリカへ行って2年、帰国して1年が経っていた。
 帰国した慎が何を思ったのか知らないが、また前と同じ様に過ごせると喜んだ久美子にある日突然告白してきて「バカ言ってんじゃねぇ」と断ったのが、10ヶ月前。
 それから一切合財忘れたように在学中と変わらぬ態度で甘える久美子に、慎も同じ態度で接してきていた。

 それがどうして同僚二人に責められる状況になったのかといえば、わかりやすくも他の女と歩いていた慎を見て無自覚のヤキモチで散々怒った挙句、ケンカになってから自分も慎が好きだったのかと気づいたワケで。

 それ以降、仲直りした後に「お前あたしのこと好きだろう!」と何度も問い詰めては「好きじゃねぇよ」と回答されるハメに陥っている。

「大体、自分で気づいてなかったってのが問題ですよ。在・学・中・か・ら!」
「だって生徒でしたもん~!」
「生徒と手を繋いで下校したり、泊まりにいったりしないんですよ普通は」
「自業自得やねん。何て言うたんやっけ?断る時」
「「今度好きって言ったら金輪際遊ばない!沢田がそんなこと言うなんて思わなかった、見損なった!!」でしたっけー」

 一言一句違わない再現に、久美子が思わず苦虫を噛み潰した顔でじとりと妙齢の美女を見た。

「なんでそんなハッキリ覚えてんですか藤山先生…」
「うふふ。告白相手にこんなに言われて、それでも側に居てくれるんですからよっぽど好きなんでしょうね~沢田君。かっわいそ~」

 対して藤山はこの上なく楽しそうに笑顔を見せる。
 ぶすくれて机の上で唸りながらジタバタと久美子が地団駄を踏むと、携帯をいじりながら二人の様子に呆れた顔で見ていた川嶋が、突然席を立ってテーブルの上に自分の支払い分のお金を置く。

「え、どうしたんですか川嶋先生!」
「何って、帰るんよ~いじけ病のヤンクミのお薬も調達したし♪」
「えーもう調達できちゃったんですか~残念…」
「何?クスリって何ですか!?」
「あんたはなあ、人に言わそうとするからアカンねん。自分からちゃんと告白してへんのやろ?」
「うっ…」

 図星を突かれて、押し黙る。
 確かに久美子は自分の気持ちを自覚してから、慎の気持ちを聞こうとはしていたけど、断ってしまった自分が「好き」という勇気が無くて、一度も言っていなかった。

「言ったら、変わりますかね…」
「どうやろな。でも沢田はちゃんと言ったのにあんたは言わないのは、フェアじゃないで」
「何がフェアじゃないって?」

 突如この女同士の飲み会に居るはずのない…というか、久美子の悩みの種である人物の声に飛び上がるほど驚いて振り向くと、そこにはいつも通り無愛想なポーカーフェイスで佇む慎の姿。

「おっ!なっ…こっ…!?」
「なんて言ったん」
「「お前、なんで、ここに」だろ多分」
「さっすがぁ~沢田君♪じゃあ山口先生、あたし達帰りますからね、ちゃんと言うんですよ!」
「しっかり頑張りや~ヤンクミ!」

 迷わず自分の言いたかったことを代弁した慎に、藤山同様「流石沢田だ!」と思いながら、久美子は慎を凝視して固まった状態のまま動くことができなかった。
 そんな久美子を意に介せず、二人の元同僚はニコニコとそれはもういい笑顔で去っていく。

 後に残ったのは、無口な男と固まった女。

「…え…っと…」
「川嶋からメールきて…お前迎えに来いって」
「あ、そうなのか。別に大丈夫なのになあ!はは…は…」
「後、お前がオレに話あるって」
「へぇ!?そんなもん…」

 ない、と言いかけて実はあることに気が付いた。

「…ねぇの?話」
「ある…すげぇ重要なのが、ある」
「ふぅん?」

 あたしの一生に関わる話なんだ、と続けて。
 ずっと勇気が足りずに言えなかった言葉を口にすると、慎は喜ぶでもなく深く深く溜息をついてぽつり「やっと言いやがった」と言って店内にも関わらず抱きしめられて久美子は真っ赤になったのだが、肝心な言葉を慎からもう一度聞きたくて上目遣いに強請る。

「お前も言え!」
「やだ」
「お前、あたしのこと好きだろう!」
「好きじゃねぇよ」

 やっと思いが通じて、違う回答が聞けると思ったら今まで通り焦がれる相手に言うとは思えぬ冷めた同じ回答が返って来て、唖然とした久美子の耳元に

「好きよりずっと愛してるし」

 なんて囁かれ二の句が告げない程真っ赤になった恋人に、慎は彼らしくニヤリと笑った。


Fin

嘘っぽいけど、嘘じゃなかったんですよーというお話。
普段愛を語らなさそうだけど、いざって時はもうお腹一杯胃薬下さいって位愛を語りそうな慎ちゃん…。
(いざって時=人様にはナイショの夜)