犬猿の仲に
<02.「俺の視界に入ってくんな」>
 あたしが何をしたって言うんだ!

 朝の職員室で、ギリギリ遅刻しなかった職員会議とSHRを終えてどっかと椅子へ腰を下ろすと、優雅に授業の準備を始めていた藤山先生が大きな目を更に大きくしてこっちを見た。

「どうしたんですか山口センセ?」
「朝っぱらから不機嫌さんやなぁ」

 反対側からは川嶋先生。

「不機嫌にもなります!あんの野郎が…」

 今朝、珍しく少し余裕のある時間に学校に向かっていたあたしの後ろから、素敵な篠原さんに声を掛けられて。

「お早うございます、山口先生。今日は早いんですね」
「おっ…おはようございますっ篠原さんっ!」

 一社会人として遅刻しないなんてのは、当然のことですよ!と力説しながら、内心「今日も爽やかで素敵です~!」なーんて内心叫んで、次の飲み会はいつにしようかとか、2人の時間を楽しんでたのもつかの間。
 あたし達の横をいつもの独特な歩き方で無言のまま通り過ぎた愛想のないのが一人…。

「おいっ沢田!挨拶くらいしねぇか!!」
「…はー…」
「溜め息つくなっ。ご・あ・い・さ・つ・は!?」
「うぜぇ」
「それは挨拶じゃねぇええ!!」
「うるせぇ。お前は男といちゃついてろ」
「んなぁ…っ」

 話してただけでいちゃついてるとか言うんじゃねぇ!と胸倉掴みあげようとしたあたしの手を存外強い力でグッと握り込み、耳元で篠原さんには聞こえない程度の小声で

「てめぇみたいのでも相手してもらえる内に捕まえれば?」

 ま、できればだけど。

 薄くバカにしたような、くぐもった笑いを残して学校の方へまたゆったりとした足取りで歩いていった。

 残されたあたしが、言われた意味を理解した頃には既に沢田の姿は当の彼方へ消えていて。
 それまで篠原さんと話していたウキウキルンルン♪な気持ちもどっかに吹っ飛び、慰めてくれてただろう篠原さんに対する顔は、きっと酷いものだったと思う…。

 しかもしばらく停止してたお陰で、余裕があったはずの職員会議はめちゃくちゃギリギリになっちゃったし、文句を言おうと勇んで行った3DのSHRの後で奴は。

「なんて言ったと思います!?」
「「さあ…」」
「あいつ…あいつは…!」

 ヤンクミ顔怖ぇーよ!といわれながらもこなしたSHR。
 1人席を立ち廊下に出て行った沢田を追いかけて朝の文句を一頻り捲くし立てたあたしに、朝と同じ様に溜め息をついて一言。

「で?何が言いたいわけ」
「だからっ!あたしに失礼なこと言ったのを謝りやがれっ」
「…ふぅん?そういうこと。男と2人でいちゃついてる所邪魔してスミマセンデシタ、センセー」
「そうじゃねぇっ!お、お前何がしたいんだよ!」
「…俺の視界に入ってくんな。うぜぇ」

 向けられた言葉より冷たい目に言葉を失ったあたしは、腕を掴んでいた手を振り払われて、背を向ける沢田に不覚にも目を奪われたままふらふらと職員室に向か…ってる途中で段々怒りが湧き上がってきて今に至る。

「…っていう訳なんです!んもーっ可愛くねぇっ!」
「えー可愛ぇやん」
「ほんと。うふふ、沢田くんも人の子だったんですね~」
「どこが!!言い返したって減らず口ばっかで…あたし1回も口げんか勝った事ないんですよ!?」
「…それはアンタの問題や」
「…もうちょっと色々身に着けた方がいいですよセンセ」
「あたしの所為じゃありませんってば!全く、なんであいつは無駄に頭がいいんだ!」
「うはは!教師とは思えん言葉やな」
「沢田くん相手じゃ、山口センセは太刀打ちできませんよー」
「素直に懐けば可愛がってもらえるんとちゃう?」
「可愛がられたくありません…っ」

 どっちが教師とは思えない言葉を言ってるんだか。
 大体、生徒である沢田に可愛がられるとか思う自体がおかしいのに。

「の割りにいっつも沢田にひっついとるよねアンタ」
「イヤなら離れればいいのに」
「そ、それはあいつが注意することばっかやるから!」
「なーんも問題なんか起こしとらんのに?」
「うぅ…っ」
「あ、そろそろ時間だわ。じゃあ、頑張ってね山口センセ♪」
「それとしばらく合コンなしやから。それちょっと沢田に言ってみぃ?」
「えぇ~?ないんですかぁ…」

 こんなことなら今朝、沢田にかまけてないでもっと篠原さんとお話するんだった…。
 項垂れるあたしにもう一度、「しばらく合コンがない」と沢田に言ってみろと念押ししてお2人は職員室を出て行く。

 なんで被害者のあたしが妥協するようなこと。
 つーかなんで合コンのことを沢田に報告しなきゃならないんだ!と思っていながら、昼休みに屋上で寝てた沢田に至極普通の口調で

「しばらく合コンないから、てめぇらと一緒にいるからな!」

 と言い逃げしたんだけど。

 放課後恐る恐るあいつら5人と一緒に帰ってみれば、なんとなく沢田からの生意気な言い返しがいつもより少なかった気がする…ような?

 さすが人生経験豊富なお2人の言うことに間違いはないんだなあ。と深い感銘を受けた。

 合コンはおあずけになっちゃったけど、まあいいか!



Fin

お題サイト<Odds And Ends>様より拝借。
やきもち?やきもち?
そしてどんな扱いでも傍にいようとする久美子さん。
なんかもやもやしてうぜぇを連発しちゃう慎ちゃん。