「…てめぇ…何やってんだよ…」
「………」
溜め息交じりに吐き出した言葉に答えるべき奴は、意識を失っているようだった。
合コンに行こう!としつこく誘ってくる仲間を振り切って一人で歩いていた帰り道。
真っ直ぐにマンションへ帰ったら、振り切って尚まだ未練たっぷり恨めしげに見ていたあいつらが、押し掛けて無理矢理連れ出されそうな悪寒がして、天気もい
いし公園で少し本を読んでから帰ろうと、学校近くの白金公園へ足を運び適当な場所を探していたら…ちょうど入り口からは死角になっているベンチに、見慣れ
たジャージ。
「ありえねぇ…」
無視したい衝動に駆られながら、いや、いつもだったら普通にシカトしてマンションに直行するのがオレなのに、感じ取った違和感につい足を向けてしまった。
しかも感じた違和感は胸糞悪いことに的中。
見下ろすベンチに、常より赤い顔で浅い息の、気に食わねぇ担任が崩れ落ちるように横たわっていた。
そして、冒頭のセリフが口を突いてでたんだけど。
面倒くさいのは大嫌いだってのに、見つけた上、こんな近くまで来てしまったらもうオレ自身の性格上、放って置けないのはどうしようもない。
それが例え気に食わねぇ担任で、しかも深く関わるのはご遠慮したい女という性別でも、だ。
起こさないように額に手を当てれば、少し熱く感じはするが程よく風が吹いている所為かイマイチ熱の具合がわからなくて、首筋を掴むように手の平を当てる。
「…ほっせぇ」
額と違い尋常じゃない熱さを篭らせているのにまず驚き、次に無意識に出た言葉を慌てて飲み込んだ。
いくらケンカが強かろうとも、女というのはわかっていたけど…こいつも体は普通の女なのか、と妙なところで感心する。
「おい…おい、って」 「…ぅ…ん…」 「…おい、ちょっ…」
どっちにしろ、こいつの実家が大江戸だと知ってるのはオレだけだし、大江戸の人がこの辺を偶然通りかかるのは考えにくい。 他の奴らに見つかろうものなら…。
そこまで考えて、なんでオレがこいつの心配をしてやらなきゃならないんだと溜め息で思考を中断し、起こす為に肩を揺らすと座ってから横になったのだろう体勢がゆっくりと仰向けに変わる。
いつもは高いジャージの襟元と強気な態度に隠れてる、白く細い首筋が熱を持った薄紅に染まって露になるのを釘付けになった視線を慌てて逸らした。
「…溜まってんのか?」
よりにもよって、こいつが女に見えるなんて。
自分の感じた体内温度の変化に、頭を抱えてしゃがみ込みたくなるのを溜め息一つで抑えてベンチへ腰を下ろし、寝てる奴の両腕を掴んで背負い込む。
予想してたよりも大分軽いそれに、また何か変なものを食った気分になってオレは足早に大江戸へ足を運んだ。
もうここまで来たら、起こさずに連れて行ってさっさと帰るに限る。
極力揺らさないように歩く背から伝わっていた、高い体温と苦しそうな呼吸が少し乱れたかと感じた瞬間、擦れた小さな声が聞こえてきた。
「さ、わだ…?」
多分熱で口が渇いてるだろう擦れた声は、よく動き回ってよくしゃべる日常とかけ離れたように弱々しい。
「…タクシー呼んで帰れよ、風邪っぴき」 「…あー…うん…?」 「辛いなら寝てろ」 「…ん…ふふっ…」 「あ?」 「さわだが優しいと…変な感じだ」 「病人相手に悪態つかねぇよ」 「…っふふふ…」 「寝てろ」 「…んー…」
こいつと2人で普通の会話するのは、いつもなら有り得ねぇけど。
今日だけは。
もしまた話しかけられても、普通に返してやるか。
そう思いながら、見えてきた大江戸の門を前に背中で寝る病人をそっと背負いなおした。
Fin
お題サイト<Odds And Ends>様より拝借。 別に悪態つきたくてついてるわけではないんだよーと。 食いつかれたら食いつき返す、青臭い慎ちゃん(笑)。 そして意識しそうになって慌てちゃった、青春慎ちゃん。
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