The stairs
<原作Ver.>
 放課後の学校は、やけに足音が響く。
 在学中とは違って上履きじゃなく来客用のスリッパだから、余計に音が耳に付くのかもしれないが。

 意外に揃っている白金の図書室は卒業後も度々お世話になっていて、そういう時いつも慎は連絡もせずにフラリと気紛れに訪れ、利用していた。

 今は「恋人」という関係になった、ここ白金の教師を続けている久美子には連絡を入れる時もあったが、今日は入れていない。

 会いたいのは山々だけれど、問題児ばかりを抱える教師の忙しさは、数年前「忙しくさせていた側」の慎にはよくわかっていたから。

 会えたらラッキー。
 会えなければ、後から黒田にでも顔を出すか、自分の部屋で待ち合わせればいい。

 実際余裕綽綽というわけではないにせよ、気持ちが通じた今は以前のように躍起になって「理由」を作らずとも会いにいけるからこその、少しの余裕が生まれていた。

「追い掛けてんのは変わンねーけどな…」

 ぷっ。と含んだ笑いを浮かべて、今頃かの愛しい恋人は何をしてる頃かと職員室の前を通り掛かった時、タイミングよく「おう!慎公じゃねぇか!」という声と共に向かい正面からぴょこぴょこと2つのおさげを揺らして当の本人が小走りに寄って来る。

「また図書室か?好きだねぇお前も」
「もう終わったけどな。お前仕事は?」
「今職員室に鍵返したら終わりだよ」
「じゃ、屋上いかねぇ?」
「ナントカと煙は高い所が…」
「そりゃお前だ」
「付き合ってやる、ちょっと待ってろ」

 軽口を返したテンポが気に入ったのかカカカッと笑いながら肩を叩いて言い残し、足取り軽く職員室に入っていった。

 前回会ったのは2日前で、久美子からの呼び出しで黒田の彼女の部屋の整理の手伝い。
 久美子の部屋に入ること自体は初めてではなかったのだが、「元生徒」を脱出してからというもの意外に久美子は、毒づくべらんめぇ口調とは裏腹に甘えたな態度をしてくるようになった。
 居間や誰かといる時はそうでもないにせよ、2人になると途端に…どこといえるワケじゃないのに、いつもどちらかといえば凛としている彼女を纏う空気が、どこか甘く砂糖菓子みたいで…。

 その甘さに、クラクラと何も考えられなくなりそうになる脳みそを叱咤して、理性を掻き集める。
 流石に彼女の基盤となってる「実家」で「家族」に「何を」しているかバレるような手出しはできないし、できればしたくない。

 まあその前に、「バレるような手出し」を彼女本人に許されてないんだけど。

「もういいぞ沢田、行こうか」
「ん…」

 バッグを肩に掛けて出てきた姿は、在学中から何も変わらなさ過ぎて、変わったはずの自分達の関係も「実は変わってないんじゃないよな?」と不安が頭を擡げることがある。

 何せ、学校内は当たり前のように「教師」の顔しかしねーし。

 20cm下の小さな頭。

 何とも無く話しながら動くのが、可愛くてたまらない。
 おしゃれでも美人でもなく、やたら強くて柄も悪いのに、自分にとっては可愛くて仕方の無い、唯一の恋人。

 あー…抱きしめたら鳩尾だよなー。
 めっちゃぎゅうって抱き潰してえ。

 適当に返事をしながらピンクモードよろしくイロうらしていた慎の視界が、屋上へ続く階段に差し掛かった所でフッと暗くなり、自分のか相手のか…どちらかの唇から「ちゅっ」と白金には似つかわしくない可愛い水音が小さく響いた。

「くっそガキ…」
「今言うことかよそれ」

 ぼやける位の距離に、久美子の憎々しげに眉を顰めた可愛い顔。
 なんだかわからないがとりあえず自分はキスをされて、しかも「した側」の久美子が文句を言っているらしい。

「階段一段昇ったくれぇじゃ追い付けねぇ」

 べちん!と先程とは打って変わって可愛くない音を頭上に受けて今度は慎が眉を顰めると、自分の頭にももう片方の手を置いて背比べをしているようだった。

 出会った時からほとんど変わらない身長差なのに、今更気になったのか一段だけ高い位置で背伸びまでしてなんとか抜かそうと頑張っている。

「ぷっ」
「何笑ってやがる」
「お前から「追い付けねぇ」って言葉を聞けると思わなかった」

 常に追いかけてる側の自分。
 年齢も、経験も。

「お前がデカすぎんだよ!縮め慎公」
「やだ」
「くそガキ!」
「お前が俺を追いかけんのなんてそれ位なんだからさ」

 一個くらい、追い続けてよ。

 耳元で囁いて、今だけ高くなった久美子を腕の中に閉じ込め、ゆらりゆらり左右に揺れた。

「お前段々生意気になってねぇか…」
「若者は日々成長してるんデスヨ、センセイ」

 もう一度、今度は自分から唇を寄せようとして「調子に乗るな!」と一発もらい、拳を繰り出した方は赤い顔で残りの階段を駆け上がっていく。

「自分からした癖に」
「うるさいよ!さっさと来い慎公!」

 拳骨を張られた頭を摩って、既に屋上のドアを開けた久美子をじとりと睨めば、いつの間にかまた少し甘い雰囲気を纏った時の顔をしていて。
 駆け上がった慎は青い空が広がるドアの向こうで、今度こそ自分から20cm下の唇を柔らかく塞いだ。



Fin

先日のツキキワ様の公示茶にて「背の差」の話題が出た時に萌えてしまったネタで。
・階段で1段違いで振り返ってキス
・ゆるく抱きしめてゆらゆら揺れる

思いついたばかりに原作初挑戦しちゃいました。
原作久美子さんはお姉ちゃんお姉ちゃんしちゃうというか。
姉弟?飼い主とワンコ?
なんだか甘々には程遠いです(笑)。