無自覚な恋の仕草
<鏡を見ては、いつも>
 5時間目の数学の時間。
 無駄とわかっててもやらずにはいられない小テスト開始10分、一応教室をグルリと見回って歩いていると可愛くないことに既に解き終えて睡眠へ入ろうとしてる沢田が目に入った。

 軽くため息をついて、前髪をかき上げる見慣れた仕草…の中に、見慣れないものがひとつ。

「あ。沢田のおでこにニキビはっけーん!ふひひ、お前でもニキビなんてできるんだー」
「…さわんな、悪化する」

「潰しやしないよ、見せてみろ青少年!」
「…見るな、悪化する」
「なにぃ!?見るだけで悪化なんかするはずねぇだろが!!」

 周囲の生徒から「ヤンクミうるせーよ!」と抗議の声があがったけど、お前らが示し合わせてテストの裏にアラ●ちゃんで出てきそうなウ●コマークで「ヤンクミ」って絵文字書いてるの知ってんだぞバカ者。
 多少うるさかろうと支障なんぞ出るもんか。という訳であたしは遠慮なく沢田の前髪をヒョイッとかき上げて、見たかったニキビちゃんとご対面を果たした。

 憮然とした顔で大人しくされるがままになっている沢田のおでこには、きれいな肌の中まるでそこだけ「シールでも貼りましたー!」って感じのポツンと小さな可愛いニキビができていた。

「あぁ~…こんなちっちゃいとつぶし甲斐ねえなあ…」
「お前…潰したら藤山と川嶋にあることないこと吹き込むぞ」
「リスク大きすぎるだろそれ!!」

 ちょっと言ってみただけなのに!

「慎ちゃんだったらアゴとかにできそうなのにね~」
「あ~『思われ』ね」
「そっ、そっ」
「でもま、ある意味正解っしょ」

 逆脅しをかけられそうになってたら、周りにいた生徒達がニヤニヤと話し出した。
 …机の上のテストを見る限り、裏面以外白紙っぽいけどな!

「なんで沢田はアゴなんだよ?」
「ヤンクミ知らねぇの?アゴは『思われニキビ』デコは『思いニキビ』」
「え、おでこのニキビって重いの!?」
「…オレらでも今ヤンクミがアホなんだってことわかった…」
「ぬぁにおうっ!?」
「だっかっらー、恋だよ恋!LOVE!LIKEじゃなくてLOVE!!」
「それが重いニキビとなんの関係があんだよ」
「恋占いみたいなもんなの!アゴに出来たら誰かが自分を思ってくれてる思いニキビで、デコにできたら自分が誰かを思ってるっつー思いニキビって言うんだよ!」
「あ~なんだ重いじゃなくて思い、あ~あ~なるほどね、オモイ違いね」

 そんな話をしている内に、当の沢田はすっかり寝る体勢に入っている。

 デコは…誰かを思う『思いニキビ』…沢田が誰かを。

「はああああああああああああああああ!!!?お、お、お、お、オイ!!さささささわさわだ起きろ!!!」
「…うるっせ…」
「お前誰を思ってるんだよ!!」

 一応あたしたちの会話自体は聞いていたんだろう。胸倉掴みあげて聞いたあたしに特に理由を聞くこともなくそれはそれは深いため息をついて。

「……誰でもいいだろ」

 横を向いてギュウギュウに掴んでたあたしの手を外してまた睡眠の体勢に入ったけれど、黒と金が混じる髪の間からかすかに見える耳が、赤かった。



「山口先生、どうしたんですかぁ?さっきから鏡見てため息ばっか」
「へっ!?い、いやなんでもないです!」

 女子トイレで鏡を覗いてはため息、コンパクトを覗いてはため息。
 ため息、ため息、ため息。
 藤山先生に突っ込まれるまでもなくわかってはいたのだけど、突っ込まれるほどため息ついてたのか。

 だってな~鏡を見る度、沢田のニキビと赤い耳を思い出して…いや別にいいんだけど。
 沢田が誰を思ってようとそりゃーまーあいつが言うとおり「誰でもいい」んだけど。

 いつも合コン誘われても「パス」と「興味ねぇ」しか言わないヤツだったから、そんな相手がいたのかと気になってるだけで。

 それだけなのに、あ~なんでこんなにため息出ちゃうんだろ?

Fin

鏡ちょっとしか出ませんな…。
多分この後、静菊コンビは南か野田あたりから情報を仕入れてニヨニヨと久美子さんの様子を楽しむハズ。

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