無自覚な恋の仕草
<本日の運勢チェック>
 見るとは無しに見た、朝の番組の占いコーナー。

 別に占い信じてねーし、どっちかというと…どうでもいい。
 人様にうだうだ「今日はツイてる・ツイてない」と言われても、結局何がいいことで悪いことかを感じるのは自分だし血液型や星座とか、一体何人同じ運勢のヤツがいるんだよ。と思ってしまう。

「あいつだったら一喜一憂しそうだな…」

 毎日小さな体で騒がしく走り回っている担任を思い浮かべて口元が思わず笑いの形をかたどった。
 あいつは1位のおひつじ座で、俺は5位のしし座…星座で言えばあんまり相性は良くねぇんだよな…いや、別に関係ねぇけど。
 朝食代わりのコーヒーを口に含んで、制服に腕を通して時計を見やると既に家を出るにはいい時間で、ひとつ小さく溜め息を吐いて学校へ向かうことにした。

 学校は正直、元々キライじゃない。
 そりゃあ信用ならねぇ大人はいるし、そいつらが作ったルールに従わなければならないのは癪だけど、世の中ルールに従わずに生きていくことはほぼ不可能だからそこは最低限であろうと割り切って従うしかない。
 まあそれよりも今学校に真面目に通ってるのはダチにと、春から飛び込んできた色気もクソもねぇ破天荒な担任に会う為に行っているようなものだ。

 教師だから必要ないといわれればそれまでだけど、オトシゴロの俺達にあそこまで「女」を感じさせないっつーのはある意味感心してしまう。
 ゆっくりとした足取りで通いなれた道を歩きながら、いつもの担任の百面相を思い出してまた口元が緩む。

 ホンット見てて飽きねぇっつーか…。

「さわだあー!」

 ちょうど考えていた顔が目の前に現れて、ドスッという結構な衝撃と共に背中が重くなった。

「おっはっよっ☆」
「…おい、朝くらい静かにしとけ」
「お前は朝から静かすぎんだよ!もうちょっとテンション上げてだなぁ…」
「朝からテンション高ぇオレを見たいのかお前は」
「……いや、ちょっと…怖い…かな?」

 何か想像したらしいヤンクミは背中に負ぶさりながらちょっと言葉を詰まらせている。
 …自分で振っといてなんだけど、有り得ない自分の姿をオレまで想像しそうになって少し顔が引きつった。

「慎!ヤンクミ!はよーっす!」
「…っす」

 そんなアホらしい会話を繰り広げていると、続々と3Dの連中が集まってきて、結局ワイワイと騒ぎながら学校までの道のりを行くことになった。


 朝のSHRまでは元気満々だったヤンクミが、何故かしょんぼりと肩を落として落ち込み気味になっているのに気づいたのは4時間目の数学。

「なあ慎、ヤンクミどうしたんだろ?」
「…さあ?」
「朝は元気だったのにな~」

 クラスの連中も気づいてどうしたのかと声を掛けても「別になんでもないよ!」の一点張りで、なんとなく腑に落ちない雰囲気のまま授業が終わると同時に、トコトコと教材を抱えてこっちに来た。

「沢田、ちょっと来てくれ…」
「…どうした?」
「いいから、弁当一緒に食べよう!」

 なんだかわからないが決定事項らしい。
 多分落ち込みの原因を愚痴りでもしたいんだろう、と大人しく従って教材を置いて弁当を取って来るというヤンクミに「屋上にいるから」と告げ、いつものベンチで待つことにする。

 仲間4人も屋上に昼飯を食べに来ていたけど、気を使ってくれたのか全員入り口をはさんでベンチの反対側でヤンクミが気にせず話せる場所に陣取っていた。

 5分程してからやっぱりまだ肩を落としたままのヤンクミが、テツさん特製のでっかい重箱弁当をベンチの真ん中に置いて反対側に座ると小さくため息をついて、早々に話し始めた。

「今朝はすっごく調子よかったんだ」

 テンション高かったもんな。
 程よい甘さのだしまき玉子を、口に突っ込まれ租借しながら心で納得して頷く。

「天気も良かったし、沢田が朝から来てたし、一緒に学校来れたし」

 …オレが朝から来るのは今となってはそんなに珍しいことでもないけど、そこは突っ込まないでおこう。

「でも3時間目が空きでさ…藤山先生と川嶋先生に誘われて保健室でお茶してた時にさ、雑誌に載ってた星占いが…最下位だったんだ…」
「…はぁ…」
「しかもそれが判明した途端、3時間目終わった後教頭にイヤミ言われるし、廊下の何にもない所で転んでお尻打っちゃうし、鷲尾先生の頭間違って叩いて泣かれちゃうし」
「泣かしたのか…」
「わ、わざとじゃないんだぞ!?蚊が止まってたから退治しようとしたら…「スッパーン!」ってコントみたいなものすっごくイイ音出て…職員室が笑いの渦になっちゃったんだ…」
「…それは…」

 悩んでる所申し訳ないが、少し見てみたかった。

「こんなに悪いことが続くなんて、どうしたらいいと思う!?このままじゃ…あ、あたし今日の帰りに事故に逢うんじゃないかとか不安なんだよ~沢田~!」
「わかった…わかったから胸倉掴むな」
「あっごめん!」

 がっちりと掴んで前後にブンブンと揺すられるのはたまったもんじゃない。

「ごほっ…」

 胸倉を掴み締め上げてくるのを阻止すると、力なくヤンクミの小さい手がオレの学ランを両手でキュッと握ってきた。

「もう…どうしたらいいかわかんなくてさぁ…沢田に言えばなんとかなるかもしれないって思って…」
「いや、さすがに占い関係は相談されても…気にしないでおくしかないんじゃねぇ?」
「そうだよな…沢田は占い師じゃないもんな…」
「そもそも占い自体……あ」

 学ランを掴んで項垂れる姿はとてもじゃないが、6歳年上の教師とは思えない。
 しかもこんな小せぇ事でうじうじしてんのに、腕っ節も度胸も半端ナイんだから反則だよな…。

 ヤンクミの不安が「占い」にあるとなれば、とてもじゃないがオレに解決できるよなことでは…と、なんとか復活するような言葉を掛けてやろうと考えた脳裏の隅に、珍しく今朝見たテレビの映像が思い出された。

「待てヤンクミ…お前おひつじ座だよな?」
「うん…そうだけど」
「じゃあ安心しろ。今日のお前は1位だった」
「何が!?」
「朝の情報番組でやってる占い。偶然今朝見たらおひつじ座が1位だった」
「ほっ…ホントかあ!?」

 オレがお前に嘘つくと思うか?と聞くと、目を真ん丸にして思いっきりブンブンと首を横に振る。

「沢田嘘つかない!」
「なんで片言だよ」
「てゆっか、お前でも占いとか見るんだぁ…」
「たまたま掛けたらやってただけ。いつもは見ねぇよ」
「そっかぁ~」

 いつもは見てないことに納得したのか、「1位」という言葉を聞いて早くも復活したヤンクミはそのまま「むっふっふ」と気持ち悪い笑い方をした。

「…なんだよ」
「きっと今日沢田がその占いを見たから、あたしが1位になれたんだな!」
「バーカ」

 さっきまでのしょんぼりっぷりはどこにいったんだか、一転していつもの笑顔に戻ると元気に自分でも弁当をおいしそうに頬張り始めた。

 単純なヤツ。

 でも、偶然が重なっただけだとしても、ヤンクミが元気になったのは嬉しい…気がする。

 5位でも、気分的には1位かもしれない。なんてガラにもなく思いながらヤンクミに突っ込まれたから揚げを味わった。

Fin

な に が し た い の か と 。
自分が占いで最下位だろうと1位だろうと、5分も経たずに忘れるタチなので「萌えは何処へ」ってくらい全く思い浮かびませんでした…orz