天然バカップル3
 内山、野田、南、クマの4人のほぼ毎日の日課は、屋上で仲間たちとお昼ごはんを食べて、チャイムが鳴るまでのんびりとだべりながら過ごすこと。
 クラスのリーダーである慎は既に4時間目の時点で「眠い」と言って先に屋上に行っている。

 ずっと5人で過ごしていたお昼休みに、いつの間にやらもう1人加わっていることに誰も違和感を覚えないのが不思議だけれども、何よりリーダーの慎がその「もう1人」がいると常に無く穏やかな顔をしているから慎大好きっ子の4人としては意義を唱える筈もない。

「あーもー腹減ったあ~」
「お前腹減ってない時あんのかよ」
「ないけど昼は更に腹減ったあ~」
「その食欲、ちょっと慎にも分けてやれ…へぇっ!?」

 階段を上って屋上のドアを開けた内山が、一歩踏み出したまま一瞬固まって奇声をあげたかと思うと次の瞬間音もなくドアを閉めて後ろの3人の首をガシッととっ捕まえた。

「なんだよウッチー!?」
「早く行けよ!ちょ、くっつくなクマ!」
「無茶言うなよオレデブなんだぞ!」
「屋上は今、無法地帯だ…!」
「「「はあ?」」」

 それでなくともむさ苦しい男子校だというのに、今にもお互いの顔がくっつき合いそうな程近くになり、自然しかめっ面になっている3人だが内山の訳が分からない「無法地帯」発言に更に眉間のしわが倍増した。

「ケンカでもしてんの?」
「違う」
「どっかのクラス全員雑魚寝とか」
「違う!」
「わかった!ラブシーン!!」
「………」
「「「ビンゴー!!」」」
「うわっ!お前ら行くなって!!」

 3人の頭を抱えていた腕を全員に振りほどかれてよろめきながらも止めた内山の声には一切反応せず、3人は勢いよく屋上のドアを開けて。

 …開けて…固まった。

「…ん?おーお前ら遅かったな~!」
「「「「……………」」」」

 いつも通りの元気な声であいさつをする久美子…はいいとして。
 声をかけてくるそのシチュエーションが普通ではない。

 投げるように伸ばして座った慎の足を跨いで座り、慎の頭を大事そうに胸に抱きかかえて埋めていた顔を上げて普通の顔で普通の声の久美子がいた。
 頭を抱きかかえられている慎と言えば、これまた普通の顔をして久美子のおさげを手に取り、口元に持って行っていた。

 その光景は何と言うか…2人が普通にしているだけに、エロい。
 というか、抱きかかえられてる慎の髪が微妙に乱れていて、隙間からこちらを見ているその視線が既にエロい。

「もー先に食っちゃおうかと思っちゃったよーなあ沢田ぁ?」
「…これじゃ食えねぇよ」
「ハハハ!それもそっか!!んーでももうちょっとだけ…な?」
「はいはい」

 お腹が減ったと騒ぐ割にその体制をやめようとしない久美子に軽いため息をついて、そのまま自分の髪に顔を埋め直す久美子の背中を優しくポンポン叩いて慎が容認した。

「あのー…座っていいでしょうか…」
「何言ってんだ、早く食べないと昼休み終わっちゃうぞ!」

  居た堪れない状況ではあるものの、追い出されない上に「遅かったな」などと言われるということは一応は待たれていたと認識すべきと考えて、もう速攻まわれ 右して引き返したい衝動を胸の内に(多分全員)抱えつつ、意を決して聞いた野田に事も無げに(やっぱり顔は埋めたまま)答えた久美子のことだから、本当に ラブシーンではないらしい…と4人は別におびえる必要もないのに何故か音を立てないようそーっと少し離れた場所に座った。

「お前らなんでそんな離れて座るんだよ、こっち来いこっち!」
「「「「………」」」」
「来いって!!」
「やだよバカ!!」
「ぬぁ~にぃ~?教師にバカって言うたぁいい度胸だなオイ!!」
「何が悲しくて親友のそんな姿間近で見なきゃなら…うぅっ!」
「ウッチー!」
「泣くなウッチー!」
「ヤンクミが悪い!」
「なんでだよ!!」

「「「「どう見てもラブシーンだろその体勢!!!」」」」

 見事にハモって涙目で訴える4人の迫力に一瞬気押された久美子の背中をもう一度ポンポンと叩いて、それまでほとんど傍観状態だった慎が口を開いた。

「…そろそろ降りろ。飯食うぞ」
「え?あぁ…うん」

 体の上から久美子を降ろし、未だ涙目の4人の胸の内はよくわからないながらも恐らく自分たちが原因なんだろうということは分かった慎はもう一度一つ溜息をついて4人の輪の中へ入るとぽつりと一言。

「…悪かったな」

と告げた。

 慎に謝られた事で、なんとなくうやむやになってしまった状況説明だが、数日後またもや同じ状況に陥ったので「こんなこと何回も耐えられない!」と本当に今にも号泣しそうな野田がどういう経緯でなるのかと問い詰めたところ返ってきた会話というのが。

「沢田の髪ってさーすっごいいいにおいするんだよなあ。男のくせに!そんで、シャンプーとか何使ってんのか聞いて同じのにしたんだけど、どうも違う感じがしてさあ…」
「お前と同じ匂いしかしねぇよ…つかいいだろ髪の匂いが違った位…」
「だめなんだよ!その沢田の匂いがいいの!!」
「はー…わかった、じゃあ俺が今使ってるのやるから…」
「え、いいのかー!?じゃあ、今あたしが使ってるのお前にやるよ!」
「本末転倒じゃねえか」
「違う!これでまた比べて同じ匂いか確かめるんだよ!」
「あ、そ」

  でもおかしいな~同じの使ってなんで違うんだ~…とまた再び慎の膝によじ登ってクンクンと髪に顔を埋めはじめた久美子に「なんでせめて後ろからやらねーん だよ!」と突っ込めば、「う、後ろからなんてそんな恋人さんみたいな真似できるかよこっぱずかしい!!」と真っ赤になるのだが。

 膝の上に乗って胸に頭を抱いて髪に顔を埋める姿がなぜ「恋人さん」に見えないと思えるのか。
 これまた平然とされるがままになっている慎のポーカーフェイスがやけに色っぽいような錯覚にまで陥って、4人は深くため息を漏らした。

「俺達以外が来たらどうすんだろこの人たち…」
「変わんねーだろ、素でやってんだから」

 涙をぬぐう真似をしながら呟いた野田に、もう悟ったような表情で内山が返した。

Fin

どこまでも妄想が止まりません(笑)。
一体この後、結局シャンプー問題が解決したのかしないのか…気が向いたら書くかもしれません^^;

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