飽きもせずに、昼休み屋上へ集まる仲良し5人組…プラス、1人。 もちろんその「プラス1人」は学ランの中に一人ジャージ姿で紛れていようと無駄に溶け込んでしまっている担任のヤンクミこと山口久美子その人だ。
クラス全員と仲良しなのは当たり前だけども、その中でも特に仲の良い…というには語弊があるが…ほぼ毎日久美子と一緒にいる沢田慎がつるんでいる4人組みは、当然久美子とつるむ時間も増えるわけで。 いつの間にやら6人1組のようにクラスでも認識されていたりするこの6人が今日は屋上で何をしているかといえば、久美子の横でごろりと体を横たえてお昼寝体勢になっている慎を除き真剣な顔を突合せ「可愛い女の定義」について話し合っていた。
「だからあ~まずおしゃれなのは必須だって!」 「おしゃれでも顔が可愛くないと…」 「やっぱナイスバッディだろー!?」 「料理が上手な子が…」 「女は度胸だろ!!」 「「「「それは違う!!」」」」
端から野田・内山・南・クマ…最後は言わずもがなの久美子の発言に、4人が口を揃えてダメ出しをする。
それぞれ食事を取りながら南の失恋話から始まった「可愛い女の定義」を、何故か食べ終わっても延々と続いており…慎はまとまりのない、というより既に何を
話してるのかちょっとズレて来ている友人達+αにこっそりと溜息をついた…はずが、隣の久美子の耳には届いてしまっていたようですぐさま膨れっ面でグルリ
と振り向かれた。
「何溜息ついてんだよ沢田!」 「…別に」 「寝てないんならお前も参加しろ!」
ぐいーっと腕を引かれて無理矢理起こされた慎は諦めたようにまたひとつ溜息をつくと久美子の膨れた頬を指の背でするりと撫でて機嫌を取った。
「わかったから…」 「ちゃんと付き合え!」 「ハイハイ」 「ハイは一回だあ!」
起き抜けにやっぱり甘ったるいことになった二人に砂を吐きそうになりながらも、自称「恋愛マスター」の南がここはオレの出番!とばかりに切り出す。
「で!ズバリ慎ちゃんの好みのタイプはぁ~!?」 「そういや聞いたこと無かったよね」 「慎は稀に合コン行ってもだんまりか即帰宅だもんな」 「硬派なんだよ慎は!」 「沢田はもうちょっと青春謳歌しないとだめだぞっ?」 「好みねぇ…」
思い思いで勝手に話す5人を尻目に、慎は思案顔で親指に嵌めた指輪をクルリと回した。 そして…ふと顔を上げて一言。
「特にねぇな」
密かにわくわくしていた男子高校生4人はバタンと突っ伏し、何故か女教師1人はホッとしたようなガッカリしたような顔をした。
「特にないって…なんかあるでしょ!?」 「ねぇよ…そもそも好みだから惚れるってわけじゃねぇだろ」 「そりゃそうだけどぉ~」 「つーか、慎は女の子を「可愛い!」と思うときってないワケ?」 「…可愛い、ねぇ…」 「言っとくけど、なつみちゃんは却下な!」 「………わかってるよ」
最後の珍しく鋭い久美子の付け足しに、多少それで茶を濁そうとしていた慎は内心ギクリとなりつつも了承する。 かといって、5人が真剣に話し合う「可愛い女の定義」は全くもって思いつかない。 そもそも内山が言ったように女を「可愛い」と思う時自体が妹のなつみ以外皆無なわけで…と、元々律儀な面のある慎は数少ない女性との接触を思い返してみて、あぁ。と存外簡単にその現場に思い至った。
「お前かな…」 「は?」 「お前のこと可愛いと思うのは多いかも」 「へぇーっ!!?」
思い至った為素直に言ったワケだが。 言ったら言ったで、さあ言えやれ言えと言っていた5人が固まってしまった。 内1人の当事者は熟れたトマトかリンゴかという程真っ赤になって慎を凝視している。
「お、おぉお…お前っ!なんであたし!!」 「「「「なんでヤンクミ!!?」」」」 「なんでお前らそんなに意外そうに言うんだ!!」
なんでなんでと方向は違えど同じ言葉を連発する5人に、素直に思ったことを口にしただけの慎は首を傾げて「何が「なんで」?」と聞き返したら、納得いかない顔をしつつも今度は押し黙った。
「慎ちゃん、本気でヤンクミ可愛いとか思うわけ…?」
物凄く訝しそうな顔で聞いたのは南で、後ろで3人と…自分の隣では久美子まで賛同するように頷いている。 よっぽど納得できないらしい久美子が、比較的いつも「こいつ可愛いな」と無意識下で思っていたことがわかった慎はなんとなく面白くない。
「じゃなきゃ構ったりしねぇし」
可愛い女子高生でも美人な女子大生でも、4人が羨ましがる程のどんな素敵な「オンナノコ」に言い寄られても頑としてデレッとする所かニコリともしない慎のツボが…これ?
4人は真っ赤になったままの久美子を見やり、やっぱり有り得ない!と首を横に振る。
だけど「信じられない!」と言い切るには、食べかけの飴引き受けちゃうしお風呂で髪洗ってあげ水着着用らしいが)、担任に対する態度…にしてはとてもじゃないが行き過ぎた甘やかしっぷりだった。
「慎ちゃん…もしかしてヤンクミの事…好き!?」 「あたしは好きだぞ沢田!」 「いやお前に聞いてねぇし!」 「…オレも好きだな」 「だよな!!」
内山が聞いた意味とは明らかに違う意味の解釈をしているだろうが、満面の笑顔で「好きだ」という久美子と、満面…とまではとても行かないが常には無い優しい微笑で「好きだ」と返す慎。
どう見ても教師と生徒の姿じゃない…。
「慎が好きとか言ってる…」 「違和感ありまくりなはずなのに違和感ないのはなんでだ…」
クマが食べかけのクリームパンを「なんか甘いのもういい…」と言いながら袋に戻すほど、目の前にいる二人が醸し出す雰囲気は甘々で。
誰ともなく深い溜息が漏れた。
「慎ちゃんはヤンクミのどこら辺が可愛いとか思っちゃうわけ?」 「…甘えてくるとこ…?」 「沢田は甘えると嬉しいのか?」 「ヤンクミだったらな」 「じゃあいっぱい甘えてやる!」 「じゃ、いっぱい甘やかしてやるよ」 「お前ら話聞けよ!」
突っ込みをシカトしてニシシ、と普通の男子高校生が思う「可愛い」とはかけ離れた笑い方で、ほんの少し頬を赤くした久美子の頭を慎が嬉しそうにぽふぽふと撫でる。
「ほんとにヤンクミ可愛いと思ってんだ…」 「思わなきゃ言わないだろ、慎だし」 「「「…ですよね~」」」
しかもそれが「ヤンクミ限定だ」と言い切ったも同じ慎をまだ信じられないと呟く野田に答えたクマの言葉に、3人は納得せざるを得なかったのだが。
ハッと何かに気づいた南がスクッと立ち上がって「わかった!!!」と声を上げた。
「うおっ!なんだおい!?」 「ヤンクミは慎のペットなんだよっ!!」 「「「「「はあぁ~!?」」」」」
ビシッとまだくっついていちゃこらしている二人を指差して、南が言う。 久美子どころか、当の慎まで「違うだろそれ」的な顔をしているのには気づきもせずに続けた。
「だからぁ!慎は犬とかネコとか好きなのと同じでヤンクミ甘やかすのが好きなんだって!!」
何故か目をキラキラさせて「オレやっとわかったぜ!」というような表情の南に慎を除く4人があっさりと流される。
「「「あっ、なるほど~!」」」 「まあ、沢田のペットならいいかな?」 「はぁ…」
溜息が出たのはもちろん慎だが、ペット扱いされている久美子が怒るでもなく受け入れてしまった為、もうここで否定しても更に話がややこしくなるだけか…と慎は黙っていることにした。
慎自身は特別動物好きという程でもないし、構ったり甘やかしたりするのも「可愛い」と思うのも久美子だからなのだけど。
自分の「ペット」という立場が久美子に定着して、存分に構いたいだけ構えるようになるならまあいいか。と思ったのである。
どうして慎が久美子を「可愛い」と思うのか。 どうして久美子が慎に甘やかされたいのか。
その理由がわかるのはまだまだずーっと先の話で、それまで散々周囲は振り回されることになるけれど…ちっとも気づいていない今の慎は、いかにたくさん自分に甘やかされようかと頑張る久美子に知れず幸せそうな笑みを漏らすのだ。
Fin
あっあま…っ!! 結局慎ちゃんは「可愛い女の定義」=「山口久美子」の図式しかないわけです。 「わー久しぶりだー」とウキウキ書き始めた天然バカップルの続編ですが、気づけば「そろそろ好きって言わせてよ」の前フリみたいなものになってきました(あれ…?)。 読みきり短編なので、どこかで終わりというわけでもなく気が向いた時に書く形にするつもりです。 ご希望ありがとうございました~! 天然の二人に少しでも当てられていただけたら幸いです(笑)。
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