「クマー!頑張ってるかぁ?」 「おうヤンクミ、いらっしゃい!」 「おっ。ヤンクミじゃーん!」 「あれ、内山ぁ~お前もいたのか」
天気のよい休日の午後。 久美子がニコニコと生徒の熊井が手伝いをしている彼の自宅の「熊井ラーメン」の暖簾をくぐると、教室では見慣れたクマが、黒い学ランではなく白い調理服を着てカウンターの向こうで、同じく生徒である内山はカウンターに座っていた。
「いつもの?」 「今沢田と待ち合わせしてるから、ちょっと待ってくれ」 「慎と?どっか行くの?」 「うーんまだ決めてねぇ。どっか行こうって言ってるだけ」 「相変わらず仲良しだね…」 「まあな!」
他の客の注文を聞いているクマの代わりに内山が水を出してそう言うと、久美子は満足気に頷いて機嫌よく店に置かれた雑誌をぱらぱらと捲っている。 普通、教師と生徒がわざわざ休日に会うなんて、何か用事がある時くらいだと思うのだが慎と久美子が休日によく一緒に遊んでいるのは周知の事実だった。
そうこうしている間に店の外に慎の姿が見えた途端、誰が声を上げるよりも早く気付いた久美子がタッタカター!と入り口まで走っていってガラリと扉を開ける。
「おっそーい!」 「悪ぃ、出かけになつみに捕まった」 「なつみちゃん?なんかあったのか?」 「いや、お前と遊ばせろって催促」 「じゃあ来週?」 「ん、言っとく」
話しながら自分が座っていたカウンターまで一緒に…来るのはいいのだけど。
何故この短い距離で手を繋ぐのか…。
手を挙げて短く挨拶をする慎に返事を返すクマと内山の視線は、どちらも繋がれた手に向けられているが突っ込めない。
「お前もう頼んだ?」 「まーだ。待っててやったぞ!」 「ハイハイどうもどうも…クマ、しょうゆチャーシューと塩」 「え、二つ?」 「ヤンクミのでしょ?」 「そうだっ!」
迷わず2つ注文した慎に「慎ちゃんそんなに食べないじゃん」と思った内山が聞くと、それに返事を返してきたのはクマと久美子。 慎はそ知らぬ顔だ。
「決まってたんなら先に頼んでおけばよかったのに」 「決まってねーよ」 「今日は沢田が決める日なんだ」 「決める日って。いいのかよそれで」 「いいんだ!好きだからっ!」
好きって、何が? ラーメン? 慎?
何故か頬染める担任の発言に浮かんだ疑問は、聞いていいものか憚られるものでもやもやとしたまま内山とクマの心中に消える。 微妙~な顔で停止してる内山を放置してクマは心中に消えたもやもや感を打ち消すのに、注文を受けたラーメンを無心に作って2人の前に出すと、喜びの歓声を上げた久美子が何を思ったのかお下げを括っていたゴムを外して慎に渡した。
「ヤンクミ、外したら食いにくくねぇ?」 「2つになってると結構邪魔なんだよ、沢田ぁー」 「…おさげで食え」 「食べにくいっ」 「…じゃあ自分で結べ」 「沢田がやると食べやすいんだよ~いつもしてくれるじゃねぇか!」 「2~3回はお前の中で「いつも」になるのか」 「ブー!!」 「黙って食えブタ子」
ぐいぐいとゴムを押し付けあいながらする問答からすると、以前も慎が久美子の髪を結わえてやったことを意味するのは明白。 それですっかり味を占めた久美子が、またやってもらおうとしているらしい。 頑なに断る慎にブーイングを唱えながら、隣の椅子から落ちそうな程慎に持たれかかって肩にぐりぐり額を押し付け、まだ粘っている。
「…ったく、後ろ向け」 「はーい!」
根負けした慎が久美子の頭を片手で押しやり了承すると、一転してニッコニコ顔に戻った久美子はくるりと背中を向けて、大人しく髪をアップにしてもらっていた。
「あーやっと食えるぅー」 「練習しろよ…」 「だって沢田いるもーん」
じゃあ、慎以外とラーメン食う時どうすんだよっ!と突っ込みたくなる会話はどう見てもバカップルとしか思えなくて、彼女どころか候補もいない身としてはどつき回したい気分だ。 食べている間位は大人しくなるかと思えば、一口ずつ「あーん♪」(とは言ってないけど)でやり取りするわ、慎が咥えたチャーシュー直接横取りしてまた取り返されてるわと見たくないシーンのオンパレード。
独り身としては殺気が沸いたって致し方ないと思う。
食べ終わり満足げに席を立った2人は勘定を支払った後、
「なー沢田あーアイス食べたい」 「家にお前買ったのまだ残ってる」 「外で食べるのがいいんだ!半分こするぞ♪」 「お前食い方汚ぇからヤだ」 「じゃ、沢田が持っててあたしに食わせろ」 「…はぁ」
なんて会話を繰り広げていたが。 断らず呆れた溜め息をついただけということは、そうしてやることにしたんだろう。
あの硬派でクールが売り(だと周りは思ってる)の沢田慎が、いくらいつも一緒の仲良しさんだといっても「女」に対して、一緒に1つのアイスを食べるどころか「食べさせてやる」なんて…。
ぷちん、と内山の中で何かが切れてガッタン!と立ち上がる。
「もうお前ら帰れ!」 「なっなんだ内山!?」 「オレ達の慎ちゃんになんてことさせやがるー!わああん!」 「わー!内山が泣き出したー!」 「うっちー?」 「うっちーしっかりしろ!」 「ヤンクミのオールドミス!」 「んなっ!!」
久美子を力強く指差して言い捨て、鉄建制裁が下る前にガラーッピシャーン!!と店から飛び出し「覚えてろよおおおぉぉ…」なんて、負け犬よろしく叫びながら内山が駆け去っていった。
後に残ったのは、 多分自分の事で取り乱したらしいが、イマイチよく意味がわからない慎と、 失礼なことを大声で言われてわなわな震える久美子と、 ここにいる誰より内山の気持ちが理解できたクマ。
プリップリ怒る久美子を宥めすかして、来た時同様やっぱり仲良く手を繋いで店を出て行く2人を見送り、泣きながら去っていった副リーダーを思って溜め息をついた。
白金公園まで走り、草むらで周りにひそひそと怪しまれながらシクシク泣いている内山が、後からやってきた例のバカップルのアイスを食べる姿を見てまた号泣することになったのは、伏せておくことにする。
Fin
可哀想なうっちーの話でした(笑)。 今回はキリ番「1000」をGETされた「???様」(お名前がなかったので^^;)からのリクエスト『天然バカップルをお願いします』とのことで、内容指定が無かった為、先日2000HITで咲月様にいただいたリクエストを混ぜ込んでみました~(勝手にすみません!)。 ちなみに内容は『「天然バカップル」で熊のお店でのラブラブっぷりを拝読したいです。被害者はクマだけでも、白金のみんなでも、篠原さんでも(笑)誰でもかまいません。』でした。 篠原さん入れようと思ったんですが、別シリーズでの扱いがあまりといえばあまりなので、気の毒になってしまって断念です(笑)。 少しでもお楽しみいただけたら幸いです!ありがとうございました。 |
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