「もー秋だなあ~…」 「…だな」
ほわほわと湯気を立てるお茶を持った久美子が呟けば隣に座る慎が短く返す。
大江戸の縁側で、老夫婦よろしくのんびりと庭を眺めているのもすっかりと定着した、秋。
龍一郎の将棋の相手をしていない間は、何をするでもなくこうして2人で過ごす時間も大江戸一家では見慣れたもので、食事の準備やしのぎやらで動き回る住人達も今となってはもはや気にも留めていない。
今日は土曜日で学校が早く引けて、久美子も珍しく教頭に捕まることなく帰宅できたお陰で2人は長いこと縁側で過ごしていた。
何を気遣う必要も無い相手との時間は穏やかで優しくて、癖になる。
そんな時間の邪魔をするようにピピピピピッと味気なく鳴った着信音は慎のもの。
短く切れたから多分仲間の誰かからのメールだろうと開けば案の定内山から『遊びに行っていい?』という文面。
「メールか?」 「ん…うっちー」
当然この心地いい空間を抜け出す気は毛頭無いので『いないから無理』とそっけなく返信し、メール画面を閉じた所で「あっ!」と声を上げた久美子に携帯を奪われた。
「何?」 「あたしだ!」 「あー…変えてなかったし」 「あたしも沢田のまんまだぞっ」 「…ホントだ」
2ヶ月ほど前に学校の屋上で、イタズラ心でお互いやや強引に撮り合った携帯の写真。
どちらもあまり携帯の機能自体に興味がないタチだからか、覗かれた慎の携帯も得意満面で見せてくる久美子の携帯の待ち受け画面も、あの時設定したままになっていた。
「もう季節外れだよな~」 「夏だったからな」 「二度と見れない夏服沢田」 「バカじゃね?」 「貴重だって言ったの!」
撮ったのは7月だったから夏服で、今は当然ながら冬服。
自分の待ち受けから視線を移して私服も秋仕様になっている慎に久美子が何を思ったのかピッタリと寄り添って携帯を手渡してきた。
「一緒に撮ろう!」 「…オレ写真苦手なんだけど」 「いいじゃん、お前の分まであたしが笑ってやるから」 「そういう問題かよ」 「そーゆー問題!ホラ沢田が撮れよあたし苦手なんだ」 「お前のは撮るのに向いてないの。…ったく、オレので撮って送ってやるよ」 「ナイスだ沢田!」
手を伸ばして携帯のカメラレンズを自分達の方に向けた事に、思惑がうまくいったとにんまりした久美子は、慎の肩に頬を寄せて全開の笑顔を。慎は久美子の頭に頬を寄せちょっと苦笑気味の柔らかい笑顔を携帯へ向けた。
後日、屋上で6人が集まった時慎が昼寝をした隙に久美子が更新した待ち受けを自慢したことでげんなりした4人に「頼むからいっその事くっついてくれ」と起
き抜けに懇願され、これまたげんなりと呆れた慎に待ち受けの画像を消されかけた久美子が怒り狂い、更に4人が鉄拳制裁という理不尽な被害を被ったのは、お
気の毒としか言いようが無い。
Fin
「そろ好き」の19の途中でこの話題が出て、あーそういえば書いた書いた、と思って急遽続きを思いついたプチバカップルでした。 11月最初の更新! 今月もよろしくお願いしま~す^^ |
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