携帯を開いて、閉じる。 数度繰り返したその意味のない行為は、歳に似合わぬ自分の感情を表していた。
「篠原さん!藤山先生からお返事はありましたか!」 「あったよ。明日集まれるそうだ」
白金から転勤になった際、何故か慕って追いかけてきた後輩は彼の地を離れていた間も変わらずコスプレめいた…役者めいた姿勢を崩すことはなく、もう付き合いは片手を越える年数になるから、このスタイルは彼の本質なのかもしれないと思う。
「ただ山口先生は来られないそうだけどな」 「え…えぇえ~~~~~!!何故ですか…山口先生…!!」
まるでこの世の終わりだな、と自分でスローモーションのように崩れ落ちる柏木を見て笑った。
「よろしいんですか篠原さん!」 「何がだ?」 「自分達は山口先生に会う為に…再び白金へ戻るというのに…」 「大げさだな。単にまた転勤だろう」 「それでも!僅か3年で同じ場所へ戻れるのはもう運命としか思えませんよ」
ニヒルに決めているつもりなのだろう、時代錯誤なサングラスを指で押し上げ柏木は遠くを見ている。 このノリには何年経っても付いて行けないが、何故か憎めない。
「運命ねぇ…」
3年前、まっすぐに純粋な好意を向けてくれた彼女を思い出す。 キラキラと力強い綺麗な目と、それに見合った信念を持ち、全てに全力で向かって…今も思い出せる屈託の無い笑顔は何より可愛らしかった。 自分が転勤になると知らせた時も、それはそれはしょんぼりとしていて…それでも元気良く「頑張って下さい!」と見送ってくれたから、頑張れたところも確かにある。
白金へ戻ると辞令が出た時、一番に教えたかったのは彼女だったけれど、メールアドレスを交換してから一度も交わしたことの無いメールをする勇気も、それまで全くしなかった電話を掛けるのも躊躇してしまって、結局やり取りしている藤山先生へと知らせた。 戻る翌々日に「いつものメンバーで飲みませんか」と添えて。
あの頃は「合コン」と称した飲み会に山口先生は我先にと参加してくれていた。
生徒が問題を起こせば、当然そちらに行ってしまっていたが、それでも他の用事よりは優先されていたから…今回も、あの笑顔できっと参加してくれるだろうと思っていたのだが。
藤山先生からの返信は 「楽しみにしてます♪山口先生は用事があるので、川嶋先生と二人で行きますね」 彼女の不参加を告げる内容で…。
勝手にしていた期待。
来ないことを責められる関係でもなく、柏木のように不満を露にすることもできない自身の性格が恨めしく思ってもどうすることもできなくて、やはり冒頭の如く携帯を開いて閉じて、意味のない行動を繰り返す。
用事とはなんだろう。
「友人」という括りにあるというのに、そんな小さな疑問さえ気軽に聞ける立場ではない事に溜息が出る。
「山口先生~…!自分は…自分はお会いできなくて悲しいッス…山口先生~!!」 「仕方ないだろう…用事があると言ってるんだから」
大げさな程感情を露にぶつけられるお前が羨ましいよ…例え相手にされてなくても。
「何を言ってるんですか篠原さん!自分達ライバルじゃないですか!そんな諦めよくていいんですかあぁ!!」 「いいも何も…」 「聞いてみて下さいよおおぉ!!何の御用事なのかああぁ!!」
…ちょっと暑苦しい感は否めないが。
「全く…聞くだけだぞ」 「はいっ!!」
勢い良く頷いた拍子にずれるサングラスに苦笑しながら、藤山先生にメールを打ち送信する。 彼女と川嶋先生には恐らくバレているだろう、自分の気持ち。
柏木が聞いていると一応書いたけれど…深読みされるだろうな。
願わくば明日、懐かしく忘れられない笑顔の持ち主に会えるように。
まだ、自分を優先してくれるのを期待して、初めてのメールを送った。
Fin
ツキキワ様の個人部屋にて公開中(10/05現在)拍手SSSのスピンオフで、篠原柏木コンビ(笑)。 篠原さんはまだしも柏木さんがイマイチ分からなくて…いかに慎久美しか見ていないかというのを実感しました。 次回拍手SSに掲載予定の「川嶋さんと藤山さん2」、「沢田くんと山口さん2」の裏話的なものです。
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