「あっ」 「…え?」
気付いた時には、遅かった。 2人共自分の口元に手を当てて、目を丸くしてお互いを見ている。
キスを。
したのは、久美子。 されたのは、慎。
「普通…逆だろ、男と女」
呆然と呟いたのも、慎だった。
サプライズ・アタック <前編>
休日を一緒に過ごすのは珍しいことではないが、珍しいといえば…その日は、慎が見たいという映画に久美子が付き合っていたことだろうか。
それは今話題の長年続いているSF映画の新作で、つい先日封切りになったばかりのものだった。
「お前でもこういう流行りのって観るんだー」 「これは小説でも読んでるからな…お前こそ任侠以外も観るんだな」 「…おい、それはケンカ売ってんのか?」 「純粋な疑問です、センセー」
席は指定席の為、同じ映画を観に来たらしい客もそれぞれのんびりとロビーで過ごしている。 帰りは混むから、と先にパンフレットを買っていた慎は、早くもポップコーンやジュースを買い込んだ久美子に苦笑いを漏らした。
観た新作映画は普段仁侠映画ばかりを好んでみている久美子でも、十分に楽しめる仕上がりになっていて、ついでだから観たいと言い出した久美子の為にレンタルショップで前作のDVDを借りて慎の部屋で上映会をした後、いつも通り久美子を大江戸に送り届ける。
いつもの休日。 いつものコース。
並んで歩いていた慎が、不意に何も言わず河原へ降りていったのを追いかけると、特に何かあったわけではないのか、別に見慣れた無表情に少しだけ笑みを引いて隣に座るよう促した。
「どーしたんだよ沢田ぁ」 「ん…ちょっとお前に言いたいことあって」
久美子が新作の映画を観たように、「珍しく」歯切れの悪い慎の言葉に、何かの相談事かと思い促されるまま隣に座ると、それを確かめた慎は一度深く溜め息を吐き出してゆっくりと話し出した。
「結構…白金に居た頃からずっと考えてはいたんだけど」 「えっ。そんな前からなりたいもんあったのか?」 「いやなりたいっつーか…なりたいには違いないけど」 「なんだよ水臭いな!なんであたしに言わねぇんだよ!」 「…うん、ちょっとお前黙ってて」 「何!?」 「話進まねぇんだよ。しばらくお口にチャックしてろ、頼むから」
茶々を入れるつもりはなくとも、元来口数の多い久美子の相手を一々していたらいつまで経っても終わらない…下手をしたらこの河原で朝を迎えることになりかねない。
先程とは違う意味で、軽い溜め息を吐くと今度こそ本題を話し出す。
「オレ、お前のこと好きなんだ」 「…………」 「先に言っとくけど、恋愛感情として。女のお前が好きだ」 「…………」 「…まあ、返事は急がないけど……っておい、聞いてるか?」 「…………」 「おいっ!ヤンクミッ!」 「………ハッ!?」
そんなに許容範囲を超えてたんだろうか。
人間の顔ってそこまで何もかも全開になるんだ…と、ついマジマジとたった今告白した相手のすごい顔で固まっている様子を眺めていたが、正気に戻ったらしい
久美子はたった今告白「された」相手に真正面から見つめられていることに気付いて、今度は色白の顔をものの見事に真っ赤に染め上げた。
「うぇええええええええええええ!!?らっライク!?」 「うるっせ…LikeじゃなくてLoveの方。今言ったろ」 「あっ、うん!そうだな!いいいいい言ったよなっ!うん!!えっ!!?」 「テンパりすぎだろ。深呼吸しろ、ホラ…」
過呼吸になりかねない慌てっぷりに見かねて深呼吸をさせ、とりあえず呼吸だけでも落ち着かせる。 顔は相変わらず真っ赤なままではあるが、さっきよりは話をちゃんと聞けるくらいにはなっただろう、と慎は話を続けた。
「つーワケで、返事はゆっくり考えろ」 「返事って…お前、なんであたし…」 「自分でも謎だな。間違いだと思って何回も考え直そうとしたけど、他の女に会っても並んで歩くだけで違和感っつーかうぜぇし。我慢して付き合おうとしても、付き合う前の時点で1週間我慢できるかわかんねぇとか思ったし」 「もっと楽しいこと想像しろよ!付き合う前に別れる前提なんてダメだろーが!」 「だよな。でもお前以外だったら、長くても2週間以内に絶対ぇ別れるの目に見えてるし」
なんだか凄い事をさらりとなんでもないことのように言う慎に沸いた疑問を、久美子は何も考えずにコロリと口から零した。
「…あたし、は?」 「…うん、で。お前と付き合ったらって考えたらさ」 「………」 「別れるって想像できねぇんだよ」 「…は?」 「お前と付き合ったら、一生一緒にいることしか想像できねぇの」 「はあ!?」
それこそさっきよりずっと物凄い事を事も無げに言って、ククッといつも通り喉を鳴らして笑う。
「なんだよそりゃ…」 「だからもうこれは言うしかねぇな、と思って言った」 「…青天の霹靂だっての」 「気付かれるようなヘマ踏むかよ」
告白したのは慎で、されたのは久美子だというのに。 バーカ、と呟いてくしゃりと撫でる優しい仕草にも慣れているというのに。 産まれて初めて言われた告白のような、プロポーズまがいに久美子はバクバクと心臓を打ち鳴らす。
その微妙に甘い空気を周りに漂わせたまま、結局朝方まで河原でたわいも無いことを話し続けて、空が白んできた朝の4時過ぎにやっと2人は腰を上げた。
大江戸まで送ってきた慎は、やはり普通に
「じゃあ、来週のクマの結婚式…8時頃迎えに来るから」
それだけ言ってきびすを返した。
NEXT
続いてしまいました…時系列だとここから最後までは、半月くらいです。 ご存知の方はご存知のこのSS。 もう何も言いますまい…!(というか言えない)
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