「じゃーまたな!」 「幸せになれよ~!!」 「ラーメン食いに行くからなー!」 「「「「「「解っ散~~~!!」」」」」」
店の前で口々に祝いの言葉と再会の約束を熊井夫婦に送り、2次会は日付が変わる頃終了した。 全員が散々飲んだ後とあって、帰路に着く散り散りな方面からは未だ明るい笑い声が聞こえてくる。 最後に残った在学中からお馴染みのメンバー3人とも別れ、今日は久美子も利用する移動手段として車を出し、出先では酒も飲むだろうからと前々から大江戸に泊まる事になっていた慎と久美子は駐車場まで行き、代行タクシーへ連絡した後車内で待とうと乗り込んだのだが、当然といえば当然ながら…先程のアレの所為でどうにも会話が続かない。 いつもならあれこれと話し続ける久美子が黙り込むと、元来無口な慎が話すこともない為黙々と時間が流れる。
「も…もうそろそろ来るかな?」 「…ヤンクミ」 「え?…んむっ!」
沈黙に耐え切れず、独り言のように窓を見て言うと…返事をするように名前を呼ばれて振り向いた視界には、先程も間近で見た少し癖のある黒髪と、間から覗く長い睫。 そして言葉を発するよりも早く、唇が慎の柔らかなそれに覆われたと思った次の瞬間には、ぬるりとした感触の温度の高い舌が返事をするべく開いていた隙間を抉じ開けて入ってきた。
「ぁっ…んうっ、んー…っ!」
縦横無尽に口腔を侵され、舌を引きずり出されて貪られる。 合わせているのはほんの一部なのに、慎の舌の同じく飲んだ酒の匂いと、微かに苦いタバコの味に自分の体内が全て侵食されるような錯覚に陥りながら、覆いかぶさる慎の胸を拳で叩いたが、逆に強く引き寄せられ更にキスが深くなるだけだった。 ぴちゃり、という少しぬめった水音と共にキスが終わり、久美子と同じく息の上がった慎が振り切るようにドサリとシートへ座りなおす。 離れる時に一瞬外の光で見えた唇はどちらのものともいえない唾液でてらてらと濡れ光っていた。 多分確実に同じ様になっているだろう自分の唇はジンジンと痺れ敏感になっていて、己の口から吐かれる空気さえも刺激になるのがたまらずに、あえて強く唇を噛み締める。
「……お返し」 「っ!!」
色気をたっぷりと含んだ視線と声に、ブワッと全身が総毛だったのがわかった。
「ほら、代行来た」
ちらちらと照らされた車のライトに気付いた慎が対応している間に、助手席から後ろの座席に移動してバクバクと高鳴る心臓を押さえ込む。
代行会社の人が運転席に座ると同時に、てっきり助手席に行くと思っていた慎は迷わず後部座席の久美子の隣に腰掛け、膝で拳を作っていた久美子の手を取り指
を絡ませ、手を握りこんだお陰で落ち着きかけていた心音がまたうるさく鳴り出して、車が大江戸へ到着するまでほとんど何も考えることができなかった。
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大江戸に到着し、支払いを済ませて代行会社が帰った後も、気まずい筈なのに手を繋ぎジッと並んで座ったまま何故か2人とも車を降りる気になれず、十数分が過ぎていた。
「…びっくりした」 「…あ、たしだってびっくり、したっ」 「うん…なぁ…」
先に呟いたのは慎で、何を指してるのかは聞かずともわかったから、久美子が「お返し」の事を言うと、一瞬微かな笑みを浮かべた慎は呼びかけるのと同時に久美子を見る。
「…オレ、お前が好きだ」 「……う…うん」 「悪ぃ、ちょっと流石にテンパってるっつーか…」
慎は一旦視線を下げて息を吐き、少しだけ握った手の力を強くしてもう一度顔を上げた。
「なぁ…ちょっとだけ抱きしめていい…?」
握り込んだ右手はそのままに、左手でそっと久美子の頬に触れ、結い上げた髪で露になっている項まで手を滑らせると、後頭部を抱えて自分の胸へと引き寄せる。 力は、全くといっていいほど入っていなかったが、何故か久美子は吸い寄せられるようにされるがまま慎の胸板にぴったりと寄り添った。
「心臓…すげぇ早い」 「そりゃ、惚れた女相手だと緊張すんの、オレも」
何事にも動じなさそうな顔をしておいて、耳にハッキリと届く心音はさっきからなんとか抑えようと空回りの努力をしている自分の音と重なるほど早くて、逆に安心する。
「沢田が緊張…」 「うるせぇよ」
黙れ、といつもならでこピンのひとつもお見舞いされる所を、ぎゅうっと抱きしめる力を強められ更に密着させられた。 心臓が早いのは変わらないし、「びっくりした」原因も解決していないのだが、慎も久美子も相手とくっついているのが思った以上に心地よくて、離れがたくて逆に困ってしまう。 そうした体勢のまま、口だけは他愛も無い会話をしていつも通りを装って。 飽きることなく抱きしめ合っていた2人が、やっと時間を気にしたのは空が白々としてきた夜中よりも早朝という時間だった。
NEXT
そして前中後編でも終わりませんでした。うぉおおい! 墓穴でもいいから穴があったら入りたい。 次回完結編にて終了します。すみません…orz
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