女としての興味なんてないと思ってた。 あいつの恋愛も応援してやってたし、 家の事なんか関係なく幸せになればいいと思ってた。
でも、あの頃それが現実になっていたらオレはどうしてたろう?
そろそろ好きって言わせてよ <12>
ヤンクミを無事に送り届けたオレはとりあえず、付け焼刃ではなく今後のことをどうするか話すために大江戸へ向かうことにした。
黒銀から神山町への道は、少し行くと白金に通っていた時良くヤンクミと通った道に通じている。
あの頃は、ただ一緒に居るのが楽しくて…暇さえあればお互いの家に入り浸っていた。
半分くらいは仲間も一緒の6人で、仲良くなってなかったから花見をしそびれたと言っては葉桜の下で花見の真似事をしたり、夏は祭りにいって花火をして、出
かけやすい季節の秋は一番2人で近くにも遠くにもあちこちと出かけ、冬は冬で雪が降ったら課外授業だと寒い中無理矢理クラス全員で缶蹴りをさせられたり。
在学時の一年を思い出して、ふっと口元が緩む。
オレも結構成長したと思うけど、結局あいつにはいつまでも振り回されっぱなしってことか。
そんな事を考えながら大江戸に着くと、門前に見慣れない黒い「いかにも」な高級車が停まっていた。昨日、今日も行くことを伝えた時には何も言っていなかっ
たし、様子を伺っても緊迫した雰囲気は伝わってこなかった為急な来訪でもあったのか…と特に気にもせずに勝手知ったるなんとやらで玄関の引き戸を開ける
と、そこには見知らぬ男が立っていた。
年の頃は40そこそこ…といったところか。 爽やかさとは程遠い、触るとベタつきそうな顔つきにガタイの立派な、見るからに「その筋」とわかる人物だったが、紳士的に振舞う反面その目がぬるつくようなどす黒さを隠し切れずにいる。
イヤなタイプの野郎だ。
心で一つ溜息をつき、会釈をして奥に声を掛けようとした所で険しい顔をしたテツさんが玄関先に現れ、オレを見つけてなぜかホッとしたような顔をした事で、この隣に立つ奴こそが現在進行形でヤンクミと大江戸一家を追い詰めている人物だというのを確信した。
「慎の字!」 「こんにちは。三代目と約束してたんですけど…」 「おう、来たか慎の字。…どうも、万条目さんでしたなぁ?」 「遅くなってすみません三代目。…久美子さんを送ってきてたもので」 「世話ぁかけるな」
笑顔で三代目にお辞儀をしている万条目の横で、あえて「ヤンクミ」ではなく名前を呼んだオレに、隣に立つ男の気配が黒く澱んだのを感じる。
会ったこともねぇのに自分の女だとでも思ってんのかよ。
泥臭い気配を隠すことも出来ずただ取り繕うように笑顔を貼り付けている姿に、思わず鼻で笑いそうだった。
「こちらは若い衆では…なさそうですな」 「オレのお客人だ。すまねぇがちょいと待ってておくんなぁ」 「三代目、オレは後でもいいですから」 「お前ぇさんはオレが呼んで来てもらったんだから」
気にしねぇでこっちに来い、と呼び寄せられいつも三代目が居る部屋ではなく、来客用の和室に通された。
「すまねぇな慎の字…まさか向こうさんが来るたぁ思ってなくてな」 「いえ、想定内ではありましたから」
ヤンクミに監視をつけているなら、遅かれ早かれ確かめる為に訪れただろう。 思ったよりも行動が早かったが、あの「趣味」に心血を注いでるような野郎なら特に驚くようなことでもない。 テツさんが入れてくれたお茶を飲んで煙を吐く音に視線を向けると、楽しげに顔を緩めた三代目と目が合う。
「…?」 「慎の字、お前ぇ…昨日と随分面構えが違ぇくなってねぇかい?」 「…わかりますか」 「なんとなくだがなぁ」 「色々、腹括ろうと思いまして」 「ほぉ~…そいつぁ喜んでいいのかねぇ…」 「どうでしょうね」
お互いに含みのある物言いをして、ニヤリと笑い合った。 さすがに昨日の夜オレがあいつを抱いたのまではバレてないようだけども、昨日来た時とは明らかにヤンクミに対する気持ちが違うのは明白で…まさか速攻で言い当てられるとは思わなかったけど、何か思うところがあるのか三代目は嬉しそうに頷いている。 カツン、と煙管を鳴らして灰を落としながら先程とは変わって真剣な顔で切り出された本題。
「本当なら、これからのことぉ話そうと思ってたんだけどよぉ…日を改めようかねぇ」 「そうですね。…オレもそれがいいと思います」 「呼んどいてすまねぇな慎の字」 「いえ、また来ます」
話したい内容の当事者が同じ家にいては、とてもじゃないが話せる内容じゃない。 本来であればオレも三代目にきっちりと言葉にして言いたいことはあったが…図らずも察してくれたお陰で、気になることはあるもののオレの方の用事はほぼ終わったも同然だ。 下がる挨拶を告げ玄関へ向かうと、トイレにでも行っていたのかそれとも最初からこのタイミングを狙っていたのか、万条目がオレを視界に入れた途端ニタリ、と気味の悪い笑い顔になりゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「先程はどうも。久美子さんの婚約者の万条目です」 「…何か?」 「君は元生徒らしいけど…仲はいいのかい?」 「あんたよりはな」
図々しく婚約者を名乗る万条目にトゲのある返しをしたオレの言葉に、ピクリと方頬が引きつる。 こんぐらいで挑発されるようなら近寄ってくるなと言いたい。
「まあ、先生を慕う気持ちはいいもんですが…裏には裏の世界があるのはわかるね」 「…失礼します」
無理にありもしない余裕を見せつけようという魂胆が、ありありと分かった。 「表」の世界にいる唯の若造のオレが、「裏」ではそれなりな地位にいるらしい自分の脅威となるのが許せないんだろうが…さすがに以前よりは世渡りの術を覚えて我慢強くなったとはいえ、これ以上こいつを前にしていたら碌なことになりそうにない。 三代目と話し合っても居ない今は、とりあえず余計な事を話さずにいるのがベスト。そう考えて返事を返さずに軽く会釈をして大江戸を後にした。 後は三代目がうまくやってくれるだろう。
その後来た三代目からの連絡で、見合いの返事もやっていないのに三代目の前でも婚約者面をした万条目はこっぴどく追い返されたらしい。 ちょっとばかり胸がスッとしたのを隠して何をしたのか尋ねても、笑いながら「そいつぁ企業秘密だぜぇ!」と言ってとうとう教えてはもらえなかった。
『これでちょっとは大人しくなるといいんだがなぁ』 「…何か、やらかしそうな人でしたからね」 『あいつぁ、どぉもかなりな色基地外みてぇだからな…』
ヤンクミは、今日の帰りは一人だ。 さっき電話で「今日は残業になるから何時になるかわかんない」と迎えを断ってきたのを思い出す。
まさか今日の今日でおかしな行動を取ることもないだろう、と迎えに行くのを諦めたオレは、この後死ぬほど後悔することになった。
NEXT
EROマシーン慎ちゃん、やっと動いてくれました(笑)。 流れが(それこそやっと)大体決定したので、後は前進あるのみ!です。 三代目は慎ちゃんが大好きです。 きっとくっついて欲しいんだろうな…とか違う方向に妄想が進みましたが、三代目メインとか難しすぎて書けやしねぇ。
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