そろそろ好きって言わせてよ
<13>
男としてなんか見てないと思ってた。
合コン行けとか、彼女作れとか散々言ったし、
白金って言葉に惑わされない、
あいつの外見だけじゃなくて内面を見てくれる素敵なお嬢さんと
幸せになって欲しいって思ってた。

でも、あの頃それが現実になってたらあたしはどうしただろう?



そろそろ好きって言わせてよ
<13>



 今日は一日大変だった…。
  気を抜くと顔がニヤけちゃって3Dの奴らに初っ端から怪しまれるし、ヤンクミーって呼ばれると沢田に「ヤンクミ」って呼ばれた声が耳に蘇ってきて「ひぃ やぁ~~~!!」とか奇声上げちゃうし、クラスの奴等が不審がる位真っ赤になっちゃったらしいし…まあ呼ばれるのはHR終わる頃には慣れたけどさ。
 もうあらゆることが沢田に繋がって、極力意識しないようにしてた足の間の違和感が余計に昨夜の出来事が夢じゃなくて現実だと言われてるみたいで、なんだか授業内容がボロボロだった気がする…。

 元生徒とこんな関係になるなんてとんでもないことだっていうのは頭では分かってるのに、本当は反省して海より深く落ち込まなきゃだめなんじゃないかって思うのに。
 思い出しては恥ずかしさに悶えることはあっても、ホワホワフワフワしてちっとも落ち込めない。落ち込むどころか幸せしか感じないなんてヤバイだろ!

 実際沢田は元生徒だけど親友で、いっちばん甘えられる奴だけど…恋人じゃないのに昨日はああなるのが自然だったというか、あーあたしでも沢田は欲情とかできるんだーみたいな…いや、あたしだって正直沢田に……したけども。

 そこまで考えて、また昨夜とか今朝とかの沢田のことを思い出してにやけていたら、軽めのノックと共にドアが開いて
いつ見ても可愛らしい笑顔を浮かべた武田がひょっこりと現れた。

「ヤーンクミッ♪」
「おー武田かあ…どうした?」
「ヤンクミってば、まーたニヤけてたの~?」
「ニヤけてねぇよ!なんだなんか用か?」

 3Dの中心メンバーである5人の内、この武田はケンカは弱いけど腕っ節の強さじゃなく、ムードメーカーみたいな一面もある。
 リーダーの2人も幼馴染らしい武田には一目置いてる…というより結構いいようにされている時があるから、見てるとホンット面白い。

「ヤンクミさー、昨日の沢田さんって誰?」
「あたしの元生徒で、一番の親友だ!」
「元生徒で親友?」
「ホントかよソレ」
「親友にしては…ねぇ?」
「随分情熱的だったにゃ」

 気付けばゾロゾロと残りの4人も入ってきて、狭い数学準備室はそれだけで満員御礼になった。
 そういえばこいつらも昨日、クマの店に一緒にいたんだったっけ。
 沢田が帰ってきたことでいっぱいいっぱいになっちゃって、大江戸で落ち着くまで何が何だかゴチャゴチャになってたから忘れてたけど…そりゃあ沢田のことよくわかんなくても仕方ないよな。

「そりゃ、元生徒だけどさ…でも選んで親友になるわけじゃねぇだろ?」

 どこか不満気な矢吹や小田切の顔を見ると、ちょっと責められてるような気持ちになってほんのちょこっとだけ反論する。

「ヤンクミの彼氏じゃないワケ?」
「…じゃない、けど…いや、じゃないじゃない彼氏じゃない。違う!」
「…なんでそんな慌ててんだよ」


 無駄に背の高い土屋の問いに考えつつ答えると、は~と沢田に少し似た雰囲気を持つ小田切に淡々と突っ込まれて、墓穴を掘った事に気付いたけど沢田が居れば恋人はいらない、なんて言ったら合コン色恋大好きなこいつらのことだ。
 なんか余計なことされそうな気がする!

「いいからお前ら帰れ!あたしは残業なんだよ!」
「誤魔化さないでくだパイ!」
「正々堂々、教えろにゃ!」
「「「にゃー!!」」」
「可愛くねぇよ!いーから帰れ!!」

 ぎゃんぎゃん騒ぎ続ける5人を手や足や頭を繰り出して半ば脅すように準備室から追い出し、窓から下校していくのを確認してやっとホッとした。

 あの色恋への好奇心を少しでも勉強に向けてくれればなぁ…。

 決して新しくは無い椅子の背もたれにギシリ、と音を立てて寄りかかると、昼間残業決定してしまった時に掛けた電話を思い出す。

『もっしもーし!』
『……どうした?』

 そういえば帰国後ずっと一緒にいたんだから当たり前ではあるけど初めての電話で、返される返事があの頃と同じ「もしもし」ではないことにまた顔がにやけた。

『いやあの、今日残業になっちゃってさぁ…何時になるかわかんないから迎えはいいよ』
『あぁ、わかった。掛かりそうか?』
『まあそれなりになぁ…8時までには帰れると思うけど』
『じゃ、夕飯は待ってる』
『うんっ!』

 先に食べてていいのに、と言った方がいいのかという気もするけど、夕食を沢田と二人で食べるのも3年ぶりだと思えば断れるはずも無く、元気に返事を返す自分がいる。

『それよりお前さ…体大丈夫か?』
『は?』
『だから体。ちょっと無理させたかと思って』
『…うっうううううんだっだだっいじょびゅだ!!』
『どもりすぎだろ』

 耳元で聞こえる沢田の声は、途中まで普通だったのに…体調を聞いた時からやたら色っぽいつーか甘ったるいつーか、昨夜のあの時みたいな声で。

「ぬぁああああああああ!!!」

 つーか、あんなこと真昼間から普通に電話で聞くな…いや待て、帰宅後に直接聞かれても挙動不審になりそうだから困る…けど…いっそ聞かないで欲しかった…けど。

 あたしのこと心配してたとか…。

「あああああああ!もうっ!!」

 ダメだっ!!
 沢田のこと考えると全っ然仕事にならない!!


 勢い良くブンブン頭を振って、赤くなってるだろう顔の熱を冷まし残業を早く終わらせるべく、雑念を追い払った。


**********


「っは~…やれやれ」

 ずっと座って作業をするのにも教師生活数年を経て慣れてきたとはいえ、疲れるものは疲れる。
 黒銀の校門を出てとっぷりと暗くなった道を少し早足で歩いて、首を左右にコキコキ動かして凝りをほぐしながら腕時計を見ると、時刻は7時少し前になっていた。

 沢田には8時頃って言っといたから、ちょうどいいかな。

 沢田の卒業前には当たり前だった関係が、あいつの帰国と共にまた自然に戻ってきたのをくすぐったく感じて、沢田に「今から帰る。予定通り!」と簡単にメールを打ちハーッと白い息を吐き出す。

 暗いんだから、誰にも見られまいと我慢してたニヤニヤを開放して浸っていたら、不意に横の暗闇から蛇のようにするりと黒い人影が現れ、声を掛けられた。

「…山口、久美子さんですよね?」

 伝わる気配に反射的に体に緊張が走る。

 見知らぬ他人にこうやって待ち伏せされて、良い事のあった試しがないが、気配とうっすら灯る街灯で浮かんだシルエットと雰囲気は恐らく「その筋」のモンだ。

「どちらさんで?」

 警戒を解かずに問い返すあたしの言葉に小さくクスリ、と笑った音がする。
 その間に暗闇に慣れてきた目を凝らし見えたのは、なんともいやな目をこちらにまっすぐ向ける中年男性の姿…覚えたくも無い見合い写真で見た男の姿があった。

「万…条目さん…でしたっけ?」
「万条目修市です。覚えてていただけたなんて光栄ですよ、久美子さん」
「それで、何か御用でしょうか」
「お時間は取らせませんので、お茶でも」

 本人はにこりと笑ったつもりだろうが、どう見てもニタリと妖怪じみた風にしか見えないのは、あたしが沢田を見慣れてるからか?

 返事をせずにいるあたしに万条目が指し示したのは、目と鼻の先にある喫茶店で。

 そこが大江戸のシマであることと、堅気がやっている所だというのを確認していると、

「お見合いの件でお話したいことがあるので」

 と言われ、8時までには帰宅したい旨を伝えると「ほんの10分ほどで構いませんから」と半ば流されるように店へと連れて行かれた。


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久美子さん視点、書きやすくなってきました(笑)。
次回から怒涛の展開!だといいな!!orz