無茶をしてないかと、いつも思い出していた。 無理をしてないかと、いつも心配だった。
誰かちゃんとあいつを甘やかしてやってくれと思いながら 自分以外の誰かに甘える姿を見たくないと思ってたのも事実。
そろそろ好きって言わせてよ <15>
「沢田…なんか、風邪引いたかも…」
風呂に入るまで多少様子はおかしかったが、体調はよさそうだったヤンクミが出てきた途端顔を真っ赤にして呼吸も荒く苦しそうにしていた。
「大丈夫か?」 「あつい…っていうか、心臓バクバクいってる…」
のぼせてるなら納得できるが、入っていたのは30分程度でのぼせるような時間でもない。
「さっきまで全然平気だった、んだけど…」 「だよな…ちゃんとあったまったか?」 「…入っ……っあ!」
話す間も呼吸は荒いままで、風呂上りの所為ばかりではない汗がうっすらと額に浮いているのを、手近にあったタオルで拭うといきなりビクリ!と反応してきつく目を瞑る。
「どうした?」 「な、なんか、変だ…」 「熱上がってんのか?」 「…かも…っ…」
発熱すると感覚が鋭敏になるのは結構ある話だけど、それにしても様子が変だ。 苦しげに薄く開いた口元や、俯いてる姿勢の所為でパジャマから覗くうなじが、やけにオレの男の部分を煽る。
「…とにかく、部屋行くぞ。今日はもう寝とけ」 「…う、んっ…」
それでなくとも昨日の今日だってのに、流石に病人を襲うわけにもいかず抱き上げて寝室へ運んで座らせたが、その際に触れるシーツの感触さえも辛そうだった。 まだ熱が上昇しているのか、さっきよりも荒くなった呼吸と頼りない表情で自分の胸元を押さえている。 そういえば「心臓がバクバクする」って言ってたっけ、と思い少し顔を覗き込めばどうしたらいいのかわからない、といった顔で既に半泣き状態のヤンクミの顔。
…こいつが苦しんでるってのに、可愛いとか思うオレも大概だな…。
「ヤンクミ、ちょっとコンビニで熱さましになるもん買ってくっから…待てるか?」 「や、やだ…っ!」 「すぐ帰ってくるから」 「やだっ!…いか、行かないで…こわい…」
薬などはまだ揃えてないし、10時を回りそうなこの時間では近くで開いてる店も少ない為、コンビニで熱冷まシートや明日にでも口に入れられそうなものを買ってこようとヤンクミに告げ腰を上げかけた所で、袖を掴まれて引き止められる。 ずっと付いててやりたいのは山々だが、何にせよこれだけ苦しんでるなら早目に対処した方がいいから、大人しく待つように諭してもヤンクミは頑として首を縦に振らなかった。 挙句ボロボロ涙を流して「怖い」を連呼する。 掴んでる手を見れば、その感じてる恐怖の為か震えていて…ヤンクミが風邪を引くのを見るのは初めてじゃないけど、こんな風に縋りつく様子を見せることなんてない。
「なあ…熱出た時…いっつも怖いのか?」 「ちが…変…きょう、へんなん…っ」
泣いてる所為で呼吸が更に荒くなりながら、否定する。
風邪じゃない…。
とにかく何かに怯える姿は尋常じゃなく、買い物に行くのは後回しとしてベッドに腰を下ろししがみついてくるヤンクミを抱きしめた。
「わかった、ここにいるから…な?」
しゃくりあげる程泣くのを安心させようとゆっくり背中を撫でたら、いきなり大きく体をビクつかせて目を見開き、口から引っ切り無しに嗚咽…というには余りにも昨夜のそれに似た声を上げだした。
「やっあぁっ…あっ、あっ、ぁあっ!」 「ヤンクミ?」 「ひ…ぃ…ぅあっ…あー…さわっだ…ぁんっ」
背を撫でる手に合わせて、上がる嬌声と跳ねる体。
いくらこいつの感度がいいとはいえ、この感じ方は明らかに異常で、思い当たる予想にじわりと冷たい汗が背中に伝った。
辛そうに喘ぐヤンクミをできるだけ刺激しないよう抱きしめなおして、知らず乾く自分の唇を舐める。
「ヤンクミ…お前今日、家の飯と弁当以外に何か口に入れたか…?」 「…っ…え…?」 「思い出せ。菓子でも飲み物でも家と持参の弁当以外に口つけたモン、あるだろ?」
荒い呼吸を抑えながら目を閉じて懸命に考えてたヤンクミは、何か思い当たることがあったらしく目を開いて口元をわなわなと震わせた。
「コー…ヒー…だ…っ」 「どこで飲んだ?」 「…ろ銀の近くの、みせ…」 「店?喫茶店か?」 「ん…あい、つ…まんじょ…めに連れてかれて…」 「ンの、野郎…!!」
紡ぎだす言葉に含まれた名前を聞いた途端、言い様のない怒りが渦を巻いて体中を駆け巡った。
甘かった。 この様子だと、その店のコーヒーになんらかの方法で恐らく媚薬の類の薬を盛られたのは間違いない。 大江戸で邪険にあしらわれたからといって油断などするべきじゃなかったのに。
怒りの感情が噴出しそうになって、視界が全て赤く染まるのをかろうじて腕の中の存在で堪え、未だ震える小さな体から片腕を外すと、ポケットから携帯を取り出して
時間が夜の12時半と思いのほか経過してる事に一瞬躊躇したが、大江戸の番号を表示させ通話ボタンを押しコールが2回鳴るかどうかの早さでテツさんの慌
てた声が響いてきた。
『慎の字か!?』 「テツさん?何か…」 『お嬢は!お嬢は無事か!!?』 「ここに一緒に居ます。何があったんですか」 『それが…あ、ちょいと待ってくれ』
いつもと違い、電話の向こうでは大江戸自体が騒がしく動いているのがわかる。 オレにしがみついて耐えるヤンクミを強く抱き寄せて「大丈夫だから」と声を掛けていると、受話器から聞き慣れた三代目の声が聞こえてきた。
『慎の字』 「遅くに掛けてすみません三代目。そちらで何があったんですか?」 『あぁ、ちぃっとばかしなぁ…命知らずが忍び込んで、とッ捕まえてたとこよ』 「…もしかして、万条目じゃないですか」 『流石お前ぇさんは勘がいいな。野郎、久美子を手篭めにしようとしてやがった』 「やっぱり…」
予想できてはいたが、三代目からその予想通りの事実を聞かされて深く溜息が漏れる。 不安げに見上げてきたヤンクミに安心させるように笑顔を向け、なるべく情欲を煽ることのないようにポンポンと背中を叩いてやった。
『それで、久美子の様子はどうだい』 「…何か薬を盛られたようで…今の所熱が辛い様です」 『そうかい…今そっちにミノルに野郎が持ってた中和剤届けさせてっからよ、効くまで時間が掛かるらしいが、もぉしばらくの辛抱だって伝えてやってくれぃ』 「わかりました」 『今こっちへ戻るのは久美子が辛ぇだろうからなぁ…頼むぜぇ、慎の字』 「………はい」 『それとなぁ、悪ぃんだが明後日ぇあたりこっち来てもらえるかい』 「えぇ、大丈夫です」 『うん、じゃあそん時ぃゆっくり話そうや』 「わかりました…じゃあ、失礼します」
明後日呼ばれたということは、明日は大江戸が動くということだ。 いくら天海組の紹介とはいえ、大江戸の一人孫に対して「ただの見合いを申し込んだ相手」が薬を盛った上に夜這いを掛けようとしたなら、大江戸どころか天海も黙ってはいないだろう。
「期せずして自爆してくれたってことか…」 「さ、わだ…?」 「大丈夫だ。今ミノルさんが…」
…ピンポーン… 来た!
「ヤンクミ、中和剤持ってくっから…」 「う、うん…っ」
電話している間、声も懸命に殺していたヤンクミは指先が白くなるほど布団を握り締めて歯をガチガチ鳴らしながら頷く姿に、心臓が軋みを上げる。
こんな目に合わせたくなかった。
最悪の事態にならなかっただけいいのかもしれないが、こいつが辛い思いをしてるのには変わりない。
オレにしがみつかないように、と我慢してきつく噛み締めてる唇にひとつキスを落として、ミノルさんがいるだろう玄関へ向かい急いで開けると、そこにはよほ
ど急いできたのだろう息も絶え絶えなミノルさんが、今にも倒れ込みそうな様子でこちらに小さな錠剤の入った小瓶を差し出していた。
「し、し、慎の、字ぃ~…これ、をぉ…」 「ありがとうございます!…大丈夫ですかミノルさん」 「あぁっしの、ことなら、気に、せず…お嬢を…!」
家に上げて休んでもらいたいのは山々だが、今の状況を考えると中に入れるわけにはいかない。 多分、ミノルさんも三代目に言われてきたらしく、すぐにきびすを返すと遅いながらもまた走って帰っていくのを見送って、オレもすぐさまヤンクミの居る寝室へ戻ると苦しげに眉根を寄せて息を吐く彼女に近づく。
「ヤンクミ、飲めるか?」
返事が無い。
多分、薬の効果がピークに近づいてきたんだろう。
どこか焦点の合わない潤んだ目でじっとこちらを見つめる姿は、オレの理性を試してるのかという程欲情の色に濡れていた。
「今楽にしてやるから…」
ベッド脇に置いていた水と、小瓶から出した錠剤を口に含んで、こちらを見るだけで反応の薄いヤンクミを上向かせ、口移しで飲ませる。 三代目の話では、中和剤が効くまでは時間が掛かるということだった。
常にどこか恥ずかしがって逃げ腰だった昨日と違い、ビクビクと体をひくつかせながら合わせた唇を貪るように吸い付いてくるヤンクミは明らかに欲情した「女」で。 互いの口腔を行き来するざらついて…それでいてぬめる甘い舌が、さっきまで抑えていたオレの中の男を強く刺激する。 上顎をねっとりと舐め、歯列を順にゆっくりとなぞり上げる間に片手をそっと服の裾から差し入れ汗ばみしっとりとした感触の柔らかな肌を背筋に沿って下から上、上から下へと撫でれば口腔に吸い込まれる嬌声と反り返る背中。
水音と共に唇を離すと、さっきよりもハッキリと欲情を露にした色を称えているこいつの目。
「は…はぁ…っさわだ…もっと…」 「やべぇ…」
理性切れそう。
同じく上がった息のまま耳元で囁けば、甲高く甘ったるい声が意味を成さない音を紡ぐ。
回数的にはともかく、日にち的にはこいつを抱くのは2度目なのに、いや2度目だからこそなのか、薬で無理矢理情欲を高められて苦しむこいつを見るのが辛い
という気持ちは確かにあるのに、抱けないと思っていた今日また抱ける、誰も知らない艶に彩られた姿を見れる喜びを感じる位、この体に、こいつに、溺れてる
俺が居た。
「んあっ、あ…ぁうっ…ふっ…ん…」 「辛い?…薬切れるまで、やめとくか?」
休み無く煽るように背中やわき腹をゆるゆると撫で続けて聞く言葉は、我ながら鬼の様だと思う。 ここで「いやだ」なんて言わせる気もないくせに、言葉だけは気遣う素振りでさも主導権はヤンクミにあるように思わせて。 案の定ヤンクミはワケも分からず、ボロリと大粒の涙を流してやめないで、と訴えた。
「な…前言撤回してもいい…?」 「うあっ…やん、んっ…な、に…」
既に赤く熟れてる耳に、唇を付けて息を吹きかけながら話すと、それだけでビクビクッと軽く痙攣するような反応と共に、元は白い…赤く色づいた肌が震える。
「抱きてぇ…なあ、昨日の今日だけど、すげぇしてぇ」 「み、耳やっ…ひゃ、あ…あぁあっ!!」
余計に高まるようヤンクミの弱い耳を殊更時間を掛けて隙間無く舐め、時々ぴちゃりとわざと水音を立てて聞かせた。
短く荒い息が上がって、こちらを睨みつける顔は既に昨日オレが中にいる時の顔そのままで…それを目にした瞬間、プチン、と理性の切れる音と共に貪る様に深
く口付けて、ゆるやかに撫でていた手は一気に熱を持ちヤンクミの着ていたパジャマをボタンを外しもせず性急に捲り上げ手を這わせる。
「ヤンクミ…」 「ぁあっ…あっ!さ、さわだ…っん、んあっ…さわだぁ…あっ、あ!」 「…っ…ごめん、今日マジでやばい…加減できねぇ、かも…」
色香を放って喘ぐ姿に、自然息が上がって目の前が霞がかったみたいに、こいつと一緒にどうしたらより気持ちよくなれるか、そればっかりが頭の中を占め始めるのを、さっき切れた理性の糸の先から知り、ギリギリ正気を保った間際でかろうじて言葉にして伝えた。
聞こえてるかはわかんねぇけど。
こいつ、普段あんだけ色気も女も感じさせねぇくせに、どんだけ化けんだよ…。
まだくっきりとそこかしこに残る昨日の赤い鬱血の痕を再び色濃くなるよう追い上げながら、まともな思考で最後に考えたのは、そんなことだった。
NEXT
一応話の流れでは重要な回なので、今までで一番長くなりました…ミノルが来るまでできないし、帰ったら帰ったで既にこの時点で(この15話が)長くなってきてるしで、思ったよりそういうシーンは削ることになっちゃったのが残念ですが…orz 連載が終わるか落ち着いたら、ERO慎ちゃん爆裂裏話、計2話UPしますのでお付き合いお願いします(笑)。 |
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