どうしてなんて、考えたことも無かった。
一緒に居るのが当たり前で。 アフリカから帰ってきたら、また当然のように隣に居て。
何の疑問も持たずにそれが「当たり前」だと思ってたのに。
でも、なんで「当たり前」だなんて思ってたんだろう?
そろそろ好きって言わせてよ <18>
沢田に難題を出されてから、数日が過ぎた。 あれからというもの、あいつは事ある毎にキッ…ちゅう、とか、抱きしめられたりとか、頻繁に濃厚なスキンシップをしてくる。
元々スキンシップが多いのはあたしの方で、沢田からされるのは精々頭を撫でられたりする位だったから、イヤじゃないんだけど…恥ずかしい。
ちなみに夜のえっ…ごにょごにょは、沢田曰く「我慢してる」らしい。
最初は最初であたしもあいつもお酒が入ってたし、次は万条目に薬盛られたからだったから、シラフでコトに及ぶってのは…そもそもあたし達は元教師と元教え子で現親友なんだから、そういうコトになる方がおかしかったわけで。
「ぬあーーー!!もうっ!!」 「ヤンクミうるさい」 「お前の所為だ!!」
わしゃわしゃと頭を掻き回して叫んでたら、キッチンで昼食の準備をしていた沢田がお皿をテーブルに置きながら文句を言ってきたので、ビシッと指差して抗議をすると呆れた様子で溜め息をつかれた。
「オレの所為かよ」 「他に誰がいんだよっ」 「センセーの抱える問題っつったら生徒サンのことだろ」 「…別に今問題起きてねぇもん」 「あ、そ」
更にサラダと取り皿を置いて準備を済ませると、ソファの上で膝を抱えてたあたしの隣に腰掛け、こっちを向けとばかりにほっぺたに音を立てて唇を寄せる。
「…なんだよぅ」
振り向くのは癪だな、と思いながらも振り向くと、当たり前みたいに厚めの柔らかい沢田の唇があたしのに重なると同時に抱き寄せられ、深いキスに変わった。
「…ん…ふう…」
沢田が帰国してから1週間足らずの間に、既に数え切れない位交わしたそれはすっかりあたし達の日常に組み込まれちゃってて、抵抗どころかされないと物足りない程気持ちがいい。 舌でノックされて薄く開いた唇の隙間から滑り込ませてきた舌に口腔をくまなく舐られると、最初は恥ずかしくてたまらなかった水音さえも、ただ気持ちよさを増幅させるだけのものに変わって…自分の膝を抱えていた筈の手は、無意識に沢田の首を抱き寄せる。
こいつとしかしたことないけど、上手いんだろうな。 …少なくとも他の奴としたいとか、比べてみたいとか一回も思ったことないばかりか、沢田としかしたくないな~なんて思っちゃってるのが何よりの証明。
2人共「ハァ…」と熱の篭った息を吐いて、体温を分け合ってた場所を離すのが少しだけ名残惜しく、多分同じコトを思ってたんだろう沢田が額をこつんと、視線を至近距離で合わせ囁いてきた。
「…何、まだ答えわかんねぇの?」 「…わかんねぇ…ん」
正直に答えると、沢田は今度は少しゆっくりとした柔らかいキスを何度も落としながら苦笑いして「オレはわかんねぇヤンクミがわかんねぇけど」って言うけど、
「お前が、こういうこと…んっ…すっからっ!」 「考える暇ねぇって?」 「…そーだよ」 「んなの、してる間も考えりゃいいじゃん」
喉で笑ってまた深くて長いのをしてくるから、「頭真っ白なんのに考えられっかよ!」という反論は易々と飲み込まれてしまう。いい加減息が上がって体の力が入らなくなった頃にやっと開放されて、「じゃあ、飯食うか」と沢田はさっさとテーブルについた。
自分だけケロッとした顔しやがって…腰抜けてそっちまで歩けねーんだっつーの!
とは恥ずかしくて口に出来ず、あたしはただ沢田を睨み上げたら通じたみたいで、こっちは怒ってるのに沢田は嬉しそうに笑いながらあたしを抱き上げた。
**********
「どーしたのヤンクミ?」 「…今あたしは難問に立ち向かってんだ」 「それ…今考えなきゃいけないのか…?」 「わかんねぇ」 「わかんねーならその顔やめてくだパイ!菓子が超まずくなるし!」 「美人先生に向かって何言ってやがる!」 「イッテェ!!」
翌日、久しぶりに白金時代の同僚だった川嶋先生、藤山先生と一緒に飲みに行こうと誘って了解をもらってたあたしは沢田に飲み会のことを連絡して、時間にな
るまで放課後生徒に混じってお菓子を食べながらまた考えてたら、あちこちからあたしの思案顔に対する否定的意見が飛んできた。 とりわけうるさかった矢吹の頭を代表して引っ叩き、また考え始める。
沢田が我慢してること。
我慢できなくなってするのは、アレとソレ…どわあ!!
「わあ!ヤンクミ顔真っ赤!!」 「あ、暑いんだ教室が!!」 「んなわけねーだろ、寒ぃよ普通に!」 「い、いや。いやはや…ははっ…は…そうだお前ぇら、ツラ貸せ!」
沢田とあたしは6歳違うけど、こいつらと沢田は3歳差だし、バカだけど若者の気持ちは若者に聞いた方がわかる!
…きっと。
…多分?
知り合いから相談されたんだけど、と前置きをして。
「お前ぇらくらいの男が我慢してるもんっつったら、なんだと思う?」 「若い男ぉ~?」 「オレ達が我慢するっつったらやっぱ…なあ?」 「「「「性欲!!」」」」 「ぶはぁっ!!」 「うわきったねぇ!」 「菓子噴くんじゃねーよヤンクミ!」 「う、うるせぇ!てめぇらが変なこと言うからだろーが!!」
若い娘に向かってなんてこと言いやがる!と怒るあたしに、5人はまた噴かれまいと少し距離を取りながらも平然と返事を返してくる。
「ほかになんかねぇのかよ!」 「だーって若い男っつったらトーゼンそれっしょ?」 「ヤリたい盛りだしぃ~?」 「…それは置いとけ。で、だ。じゃあその我慢する理由はなんだ」 「手を出せる女がいねぇ!」 「…程々にがんばれ日向。じゃあ1人の相手限定の我慢だとしたら?」 「そんな我慢は好きな女限定だにゃ!」 「へっ!?」 「どうでもいい女なら我慢しねぇけど、傍にいても我慢するのは好きな女限定!」
わかるか、山口!と真剣な顔で、何故か鼻息荒く肩を叩いてくる矢吹を見返して、もう一度聞きなおす。
「す、好きな女…?」 「そう。ほとんど毎日とか一緒にいて我慢すんのは、好きな女だけ」 「そうか…」
あたしが仕事してる間はもちろん一緒じゃないけど、帰ったら同じ家なんだから次の朝まで当然沢田とずっと一緒に過ごしてて…あれ、でも。
「我慢っつってもキスはやたらしてくるんだよな…」 「「「「「は!?してくる!?」」」」」 「あっあたしじゃないぞ!?知り合いの話で!!」 「びっくりさせんな!」 「う、す、すまん」
間違っても、その「我慢されてる」側があたしだなんて言える訳がない。その上、毎日毎日抵抗も無くキスされてる…とか…わああああ!
最中に見える伏せた長い睫が突然浮かんで、感触まで思い出しそうになって慌てて振り払う。
「おい…大丈夫か?」 「大丈夫だっ!!」
他の4人も不審そうにこっちを見て、さすがにヤバイと思った時にタイミングよく藤山先生からの連絡が入って、その中から抜け出すことに成功した。
あっぶなかった…アレがあたしの話だってわかったら、どんだけからかわれることになるやら…。
内心藤山先生に感謝しながらも、あいつらが追いかけてこないよう急いで待ち合わせしている馴染みの店へ向かうと、以前飲み会をしてから数ヶ月ぶりの2人の姿に大きく手を振って駆け寄った。
「川嶋センセー!藤山センセー!」 「なんやの、大きい声出さんといてよ恥っずかしいな~」 「相っ変わらずですね~山口センセったら♪」
苦虫噛み潰した顔の川嶋先生の横で、にっこりと綺麗な笑顔を浮かべてクスクスと笑って出迎えてくれる。 今はそれぞれ別の学校に勤務しているけど、あの白金で培った友情は途切れることなく続いていて、こうして数ヶ月に一度集まるのが習慣になっていた。
「一応ビール頼んどきましたよ」 「ありがとうございますっ」 「とりあえずビールは基本やな」 「「ですよね~」」
男性陣のいない所での女性ってのは得てして遠慮っつーもんが無い。 よって、突っ込みも篠原さん達が一緒だった時より激しいのは当然というもので。
「で?何があったんですか?」 「へ?」 「へ?やないやろ~アンタがあたしら召集するなんて初めてやん?」 「そう…でしたっけ?」 「そうですよ~?何かあったんでしょうから、さっさと言っちゃって下さいね」 「呼んどいて焦らすんはナシやで~?」
笑顔が怖いです、先生方…。 あたしが2人を呼び出した時点でバレるなんざ、我ながらなんて分かりやすいんだろう…思わずひきつった笑いを浮かべて勢いをつける為に、店員さんが持ってきたビールを一気に半分飲み干した。
「…っていうわけなんです」 「ちゅーかそれ、アンタのことやろ」 「えっ」 「どうしてそこで誤魔化しちゃうかなあ~」 「えぇえっ」
でっかい溜め息をついて、二人がまるでビールのジョッキをカクテルグラスのようにくるくると回しながら、さっき黒銀の奴らにはバレなかった「知り合い=あたし」を話した途端に見破られてオロオロと視線を彷徨わせる。
「な、な、なんで…っ」 「大体、山口センセにそんなこと相談する人なんていませんって」 「恋愛はな~あんたに関しては中学生の方が上手やで」 「中学生ってそんな!ひどいですよぅ!」 「それで?相手は誰なんですか?」
あたしの抗議なんて物ともせず、藤山先生がおつまみのチーズスティックを頬張りながら話を続けた。
「………」 「だんまり禁止ぃ!」 「あの人ですか?この前電話で言ってたクジャクセンセイ…」 「ク・ジョ・ウ・先生ですっ!鳥じゃないですかソレ!」 「あ、そうそうクジョウセンセ♪」 「そのクジョウ先生なん?」 「えー一緒に住むとか山口センセ、結構手が早…」 「違います!沢田ですよっ!!…はっ」
勢いでつい沢田の名前をゲロって、直後に手で口を押さえても後の祭り。 いつもの素敵なお2人はどこいったんですかと聞きたくなる程、目鼻口大全開にした物凄い顔をして…物凄い叫び声が店内に響く。
「「ええええええええええええーーー!!!?」」 「さっ沢田ってあの沢田か!!?」 「アフリカは!!?いつ帰ってきたのぉ!!?」 「ちょっ、お2人とも静かに…声、声、ここ店ですってっ!」 「っていうかっ!」 「一緒に住んどるってどういうことやねん!!」 「し、静かにして下さぁ~い!」
自分達でも興奮しすぎたと思ったのか、店員さんに愛想良く謝り事なきを得て、全部聞くまで逃がさないわよ!と目をキラキラさせた2人に帰国から今までのことを洗いざらい白状させられた。
「は、恥ずかしくて死にそうです…」
何が悲しくて教え子と「そういう関係」になったこととか、人様に言えないようなことを事細かに話さなきゃならないんだ…感想まで聞いてこられて、それは頑として言わなかったけど。
痛いより気持ちよかった、なんて口が裂けても言えるか!!
「ちょっと、何1人でおいしい思いしてるのぉ~山口センセ!ずーるーいー!」 「おいしいって!」 「えぇなあ…わっかいピチピチの男…うらやましいっ!」 「ややややめて下さいよっ!」 「「えーだってそうでしょー?」」 「だって元教え子…」 「なーんてこと忘れてたくせにー」 「し、親友で…」 「あるある、親友からくっつくんとか定石やな」
相談しようと思ってたはずが、普通の状況説明会になってる上、2人の中ではあたしが沢田とくっつくのが決定事項にされてるみたいで焦って色々否定するのに、悉く却下を喰らう。
「なんでそんなこと言うんですかぁ~」 「そっちこそなんでくっつかないんや」 「ずーっと沢田くん待ってた癖に、何を今更?」 「待ってたって…そりゃ、待ってましたけどそういう意味じゃ…」
だって親友ですし!と続けると、何年経とうが息ぴったりな2人に揃って「はんっ!」と鼻で笑われた上、もんのすごく馬鹿にした視線まで戴いた。
「篠原さんも報われませんよね~自分をフッた人がウジウジしちゃってちゃ」 「せやなあ~フッたからには、自分もズガーン!と行って欲しいわな~」 「おっ…なんで篠原さんのこと知って…!」 「知らないわけないでしょ?あたしが♪」 「う、うぐぅ…」
一体どんな経緯で知ったのかは気になるけど、とりあえず、今はそっちは置いといて。
「沢田の話なんですってばっ!」 「だから沢田が性欲我慢しとんのやろ?させてやりぃ」 「そうですよ~彼、若いんだし…浮気されちゃいますよぉ?」 「浮気って!だ、だからそういう関係じゃないですしっ」 「…ヤンクミ、じゃあアンタちょっと想像してみぃ」 「え…なんですか」 「沢田が他のめっちゃ可愛い子と付き合ったらどないするん?」 「…それは…それで沢田が幸せなら…」 「あーっそ!」 「じゃあ、沢田くんが山口センセにしてるみたいにキスしてもいいんだ?」 「…っ!」 「んで、同じ様にえっちしてもいいんやな?」 「や、やですっ!!」
反射的に、沢田があたしじゃない誰かと抱き合ってるのを想像して、咄嗟に本音が口から飛び出した。
沢田は女に全然興味がなくて、いつも傍にはあいつの仲間とあたししかいなくて。 あたしの他はなつみちゃん以外笑ってるところだって見たことない。
だから、他の人が沢田の隣にいる所なんてチラッとも考えたことが無かったけど…想像力のたくましいあたしは、藤山先生と川嶋先生に言われて初めて「あたしの隣に居ない沢田」のリアルな映像が頭に浮かんだ。
それに。
柔らかくてぽってりした唇とか、綺麗だけど男らしく節ばった手が、あたし以外に優しく触ったりするのまで、どんな風に触られるかを知ってる所為でどんどんどんどん想像が膨らんで、また近頃よく感じる胃の上の方がぎゅうぎゅう絞られるような痛みが、止まらない。
「痛い…」
物凄く、泣きそうな位、痛い。 胸を押さえて2人を見ると、さっきまでとは打って変わった優しい顔でこっちを見ていた。
「…嘘つくから痛くなるんよ」 「もう、なんで痛いかわかりますよね?」
こくりと頷いた拍子に、堪えてるつもりもなかったのに溜まってたらしい涙がコロリとほっぺたを滑り落ちる。 原因が分かったっていっても、胸の痛みはおさまる気配も無くて、しかも余計なことにまで気付いちゃってどうしたらいいのかわからない。
「で、でも…っ」 「なんやまだあるんかい!?」 「沢田に…あの、そういうこと言われてないんです…」 「何?告白されてないってこと?」
言われて、またこっくり頷いたら、今の今までやさしかった2人の顔がまた呆れきったものに戻り、これまた深ーく溜め息をつかれる。
「あのなぁ~…」 「だ、だって!ひとっことも言われてないんですよ!?か、か…勘違いだったら…」 「そんなわけないでしょーが!」
バンッ!と何杯目かも忘れたビールのジョッキをテーブルに叩きつけるように置いて藤山先生が力説しだした。
「えっちまでしてんのに、キスだけで我慢する意味っつったら他に何があるんですか!!」 「藤山先生、声大きい…!」 「うるさいっ!」 「はいっすみませんっ!」 「カマトトぶるのもいい加減にしなさいよっ!」 「ごめんなさいっ!」 「好きならキスのひとつもブチかましなさい!!」 「はいぃっ!!」 「…言うたな?」 「いいお返事が聞こえましたよね、川嶋センセ?」 「…へ…?」 「バッチリ聞いたでぇ?」
ニヤニヤ人の悪い笑顔を浮かべる姿は、数年前にも見慣れたもの。
…はめられた…。
そんなことに気付いたって、今更後の祭りだ。
「気付いてないから気付くまでキスだけで我慢してるなんて、沢田くんも甘やかしすぎよ」 「ダメや、この子甘やかすのだけは一生治らんできっと」 「「自分が苦労するのにねぇ~」」
わざとらし~い溜め息と一緒に好き放題言われる…のは今に始まったことじゃないけど、そんな人に言われるほど甘やかされてるのか。 2人が知ってるのは高校時代の沢田だけだから、その時からこんなに呆れられる位甘やかされてたってのを自覚するといたたまれない…あたしは6歳も上で、しかも担任だったというのに。 恥ずかしさに痛みが和らいで、赤くなりそうなのを堪えていたら横からスルリと綺麗な模様を施した爪の細い手が、あたしの携帯をヒョイと取り上げて了承も得ずに操作している。
「えっ。藤山先生?」 「シーッ…あ、沢田くぅん?あ・た・し♪…うふふ、そうよ。お久しぶりね…もうお開きにするから、山口センセ迎えに来てくれるぅ?○×ってお店だから。じゃあね♪」 「もう12時ですよ!?迎えなんて無くても…」 「その割りに出るのすーごく早かったわよ」 「かかってくるの、待ってたんちゃうの?あー甘い甘い!」
2人してすんごい楽しそうだし、からかわれてるのはわかってるんだけど…こういう話の後にすぐお迎えって。せめて家に帰るまでは…猶予期間っつーか、気持ちを落ち着ける時間みたいのがあると思ってたのに! じたばた暴れるあたしを余所に、来るまでまだ時間があるだろうと、全員でもう1杯ずつ頼み。 ちょうど呑み終わる頃に今日の相談事の主役が迎えに来た。
「…お前、どんだけ飲んだんだよ…」 「そ、そ…っ…く…来るの早いっ」
いつも通りに「そんなことないぞ!」と答えようとして失敗し、口から出たのは迎えに来てくれた沢田に対する文句とか…可愛くないだろあたし!
「じゃ、この辺で解散ってことで。後よろしくね、沢田くん」 「アンタも成人したんやし、今度一緒に飲もうや」 「…遠慮しとく」 「「却下ー!」」
一緒に飲んだらとんでもないことになるのは目に見えてるから…あたしもできれば遠慮したいけど、多分いつか連行されるんだろうなあ…。 それは沢田も同じコトを思ったみたいで、軽く溜め息をつくとあたしの手を掴んで店を出た。
沢田の大きな手に繋がれて、夜の街を一緒に歩く。
隣を歩く姿は、3年ブランクがあると思えない程馴染んでるのに、見上げる角度が昔よりもちょっと高くなって、触れてる手の平もごつくなった。
沢田は昔っから落ち着いてたけど、あの頃は子供っぽいことするのも多かったし…アンバランスな所もいっぱいあったのに…いつの間にか、ぷにぷにしてたほっ
ぺだって顎のラインだってシャープになったし、体つきも服の上だとあんまりわかんないけど、脱いだら少年っぽさが抜けてガッチリ引き締まってたよなあ…。
遠く離れてても傍に居たから。 だから気付かなかったんだろうか。
あたしが、沢田を好きだってことに。 好きって言われなくても、キスもそれ以上も許すくらい、好きってことに。
「…なんか、ついてる?」 「え…?」 「さっきからずっと見てるから」 「…いや、お前も大人になったよなぁ…」
自分の顎を撫でて、片眉をあげてこっちを見る顔も、覚えているのより成長してる。 そのままジーッと見続けてると、ふっと苦笑を漏らしておでこを突付かれキスをしてきた。
「酔っ払い」 「ちょ、外…っ!」 「うん、外だな」
状況確認してるんじゃなーい!!
「見られるじゃないか…っ」 「…困る?」 「………」
困らないかもしれない…。
黙ったあたしの沈黙をどう取ったのか、沢田はそのまま何も言わずに路地裏に入ると、聞く間もなく壁に背を押し付けられて長い腕が両側を遮る。
「さわ…っ」 「シー…」
沢田の腕で見えなくなった目の端に映ってた街灯とネオンは、今は沢田の目の中で反射して。 それが瞼と長い睫に完全に閉じ込められる時、真っ暗になった視界と欲しかった息苦しさがやってきた。
「…ん…」 「…満足した?」 「…へあっ!?」 「おっもしれー顔」
またぽわんと真っ白な世界を堪能してた中、掛けられた声で我に返ると、色気満載の微笑を至近距離で浮かべた沢田があたしの焦り具合をさも面白そうに眺めていた。 しかも、まるであたしがしたがってしてもらったみたいな物言いに文句を言おうとして視線を下に下げたら、沢田が離れられないようしっかりとシャツを握った、あたしの手。
「わあっ!」 「転ぶなよ?…さ、帰ろうぜ」
慌てて離した手は、また沢田の手の平にすっぽりと納まる。
ほとんどおしゃべり担当のあたしがだんまりしているからといって、沢田が気を使ってしゃべるなんてことをしない所為で、他に気を紛らわすこともできずにただ並んで歩き続けた。
相談すると、皆沢田があたしを好きだから「我慢」してるって言うけど。
キスをする時もした後も、ケロッとして全然我慢してるようには見えないし。
もしこれであたしが沢田を好きだってわかったら。 「答え」が「沢田があたしを好き」って言うのと全然違ったらどうなるんだろう。 つーかそれが答えだとして
「お前あたしを好きだろ!」
なんてこっ恥ずかしくて言えねーし!
手紙書くか…いや、同じ家で手紙とか。しかも形に残るのはだめだ! きっとその後吉と出ても凶と出ても封筒見るだけで悶絶する!
今まで恋ばっかり追いかけて、恋愛を疎かにしてたツケがこんな時にでるとは…。
繋いだ手から伝わるとか…少女漫画みたいなことが起きればいいのに、生憎これが現実なのはわかってる。 飄々としてる隣のポーカーフェイスはあたしの内面の葛藤なんて知る由もない。
告白って、好きだって、どうやって伝えればいいんだ?
悩みが終わったからこその新たな「難問」に、珍しく大きい溜め息をつくあたしを沢田が不思議そうに眺めていた。
全部お前のせいだっての!
NEXT
最初黒銀だけで…と思ったものの、それだとなんだかしっくりこない…やっぱり恋愛相談は女同士でしょ!ということで川嶋先生と藤山先生にブチ込んでもらいました。 久美子さんは妄想族ですから、想像させるのが一番簡単ですし(笑)。 そしてこの連載で相手に対して「好き」という単語を使ったのは、ほぼ初めてだったりします。 1回だけまだ自覚ナシの頃に1度だけ慎ちゃんが言ったんですが…タイトルに好き好き入ってるってのに、使わないようにするのが辛かった…orz もう自覚したからには解禁です。ガンガン好き好きいこうぜ!です。 |
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