「別にお前じゃなくてもいいんだけど」
お前じゃなきゃイヤだったんだ。
「篠原さんには、頼めないしさ」
頭の片隅にも無かったから。
「イヤだったら、…違う人に頼むし!」
そんな人いないけど。
口が勝手に嘘を紡ぐ。 心が直接通じたら、素直に気持ちを言えてたら、何か変わった?
そろそろ好きって言わせてよ <2>
しとしとしとしと、熊井ラーメンから帰る頃には細かい霧雨が降っていて、柔らかい空気を楽しみながら大江戸に帰った。
「ただいまあー!!」 「「「おかえりなさいやし、お嬢!!」」」
活気のある我が家。 おじいちゃん以外は血の繋がりはないけど、ずっと同じ家で暮らしてきた家族達。 いつものようにたくさんおしゃべりしながら卓を囲んで、おじいちゃんは静かに笑いながらお酒を飲む…んだけど、今日は珍しく見慣れた徳利の姿の代わりにお茶があった。
「おじいちゃん今日飲まないの?」 「あぁ…たまには肝の臓も休ませてやらねぇとなぁ」 「珍しい~」
おじいちゃんは肝臓がそんなに良くないのは知っているけど、そんなに深刻な雰囲気もなく言っているからお医者に何か言われでもしたかな…と思いながら食事を終えた後、おじいちゃんに部屋に呼ばれた。
「どうしたの?」 「久美子…先生家業は楽しいかい?」 「うん!近頃あいつらとも結構仲良くなってきてね…今日もクマのラーメン一緒に、って誘われたんだよ」
そうかい、と言って煙管をふかしながら優しく笑むおじいちゃんはいつもの姿…のはずなのに、何かがおかしい。 何か迷っているような困っているような、そんな空気を感じて首を傾げた。
「…おじいちゃん…何かあった?」
思わず聞くと、コンッと煙管を打ち付けながら眉を上げて少し目を見開いた後に苦笑いがもれる。
「久美子にそんな気ィ使われるたぁ、オレも年取ったもんだなぁ…」
否定も肯定もしない呟きは、今は肯定の意味に取れた。
「お前ぇさんに、見合いの話が来た」 「え…」 「天海のから来た話でなぁ…ちぃーとばかしやっかいな相手で、その場ですぐには断れなくてなぁ…会わなくても、一応お前ぇさんの耳に入れとくよ」
常であれば、見合い話は一切受ける気がないあたしの為におじいちゃんが全て自分の所で断りを入れてくれていた。 大江戸の孫娘ということで、色々な所から結構な数が来ているらしいというのは知っていたし、はずみであたしの耳に入ることもあるけど、知らない間に終わっている話で…見合い話が出たばかりの時点で、おじいちゃんがあたしに直接見合いの話をするのは初めてのことだった。
大江戸が力のある組だということは、よくわかってる。 この裏世界であっても表だって刃を向けてくる者はいないし、向けさせないだけの力はある。
その、うちの組長…おじいちゃんが断れない相手というならば、会う前にあたしが断ってしまったら、かなりヤバイ相手ということだろう。
「…そっか…」
それでも大丈夫だから、と。 あたしは何も心配せずに先生をしなさい、と。 跡目を継ぐ気が無いあたしに言ってくれるおじいちゃんにどれだけ余計な負担を掛けているのかと思うと、ありがたさと同時に申し訳なさが襲ってくる。
「ねぇおじいちゃん…あたし、会うよ」 「うん?」 「あたし、お見合い、する」
結婚しておじいちゃんが楽になるなら…前向きに考えてみるのもいいことなのかもかもしれない、と…この時は本気でそう思った。
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見合い相手の名前が思いつかなくて名無しという事態に…orz しかも慎ちゃんいません。微塵もいません。 次回、帰国予定です。
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