そろそろ好きって言わせてよ
<3>
 あいつのことは気に入ってる。
 多分、「女」の中では、なつみ並みに。
 一緒に居て苦痛じゃないのは、仲間だから?
 失いたくないと思うのは、あいつも仲間だとオレは認めてるんだろう。



そろそろ好きって言わせてよ
<3>



「やっぱり寒いな…」

 梅雨に入りかけの、独特のまとわりつくような湿っぽい空気に少し不快さを感じて前髪をかき上げた。
 つい昨日までアフリカに居たのだから、当たり前っちゃ当たり前か。

 つい3年前までは当たり前だった季節というものに翻弄されている身震いしそうになった体に笑いが漏れる。

「否が応にも慣れるってことか」

 元来苦手だった色々な匂いが混じる、この雑踏もなんとなく懐かしい気がしてくるんだから面白いもんだ。

 今日帰国することは家族にも友人にも誰にも知らせていなかった。
 2ヶ月程前に来た親父からの電話で、そろそろ帰国する旨と…送金するから部屋を借りておいてほしい、ということだけは伝えて。
 後は自分が不動産へ向かって鍵を受け取ればいいだけになっているから寝泊りも、向こうに居た頃に帰国する時の為に…と就職先は作っておいたし、その関係の仕事も色々請けていたから貯金も存外あるので問題ない。

 とりあえず、1週間程で家具などの生活に必要なものをそろえるのと帰国の連絡と…いや、連絡はクマに頼むか。

 3年くらいでは到底忘れはしない歩きなれた道を辿って、見慣れたラーメン屋の扉を開けた。

「いらっしゃー…あ…ああああああああああ!!!?」
「よっ」

 すっかり慣れた様子で来客用の挨拶をしようとして、オレを指差したままものすごい顔で固まったクマに吹き出しそうになりながら、片手を上げて挨拶をする。


「ししし慎ちゃん!慎ちゃん!!慎ちゃんー!!!」

 カウンターから乗り出さんばかりに知ってる頃よりもまた大きくなった巨体を揺らし顔を真っ赤にしてオレの名前を連呼してくる姿があまりに必死で、堪え切れずに吹き出した。

「そんなにデケェ声出さなくても聞こえるよ」
「びっくりしたんだよぉ!!いつ帰ってきた!?」
「ついさっき…まだ携帯とか揃えてねぇから、あいつらにクマから連絡してほしくてさ」

 今すぐするよ!と携帯を引っつかんで出てきて、店の扉の札を「準備中」に変えカウンターの椅子を2脚出して腰を下ろした。

「あぁ~…ホンットに慎だ…」
「当たり前だろ」

 一頻りメールを打ち終わると、オレの顔をマジマジを見つめていたクマが涙を浮かべながら嬉しそうにしみじみと言う。

「あっ、ラーメン食う!?」
「あぁ…こっち着いたら無性にお前のラーメン食いたくなって、ついでに連絡依頼」
「嬉しいこと言ってくれちゃってー!一足先に帰国祝いだ、金なんか出すなよ慎!」

 満面の笑顔でカウンターの中に戻って、3年ぶりにクマがラーメンを作り出した所で先ほど操作されていたクマの携帯がひっきりなしに鳴り出した。

「おいクマ…」
「皆返事早ぇーなあ~慎、全部見ていいよ。後ウッチーは多分帰国祝いの日時指定してるだろうからさ、覚えといてよ!」
「ん」

 3年経ってもウッチーの役どころは変わってないようで、なんとなく嬉しさを感じながら言われるがままにクマの携帯を開いてメールを確かめると、受信フォルダには確かに見覚えのありすぎる名前ばかりがズラリと20件以上未読で並んでいた。

 おい…いくらなんでも早すぎるだろ。

 1件1件開けば、
『ぎゃー慎ちゃん愛してるうー!早速合コンセッティングする!!』
 これは明らかに南だ。
『マジで!?マジで!?』
 わけわかんねーよ野田。
『3日後お前の店で7時!!俺泣いちゃいそう!!連絡回しとくな♪』
 うっちー…やっぱり幹事体質か…。

 他にも訳のわからない叫びしか書いてないものや、泣く絵文字で一面埋め尽くしたものや…結局、クラス全員が10分も掛からずに返信をしてきていた。

「みーんな慎ちゃんが帰ってくるの待ってたんだから、あったりまえだって」
「一人だけ返事ねぇけどな。肝心のが」

 女の中では、なつみくらい大事だと言えるオンナ。
 3年前はいつも隣にいた、どうしようもなかったオレ達を「芯のある不良」にしてくれた、担任兼無二の親友。

「ヤンクミは送ってないよ…慎、直接言いたいだろ?自分で」:・j
「ん~…だな。拗ねるし」
「そうそう」

 3年前まではほとんど毎日見ていた、からかった後や何か知らないことがあった時のヤンクミの膨れっ面を思い出して二人で笑った。
 多分、最初にクマのところに行ったと言ったら、また拗ねるんだろうけど、三代目にもテツさんやミノルさん、可愛がってくれた大江戸一家の人たちにも早く会いたい。

 とりあえず、不動産屋に行って部屋を確認してから、荷物を置いて大江戸に帰国の挨拶に行こうと、クマに挨拶して店を出た。


NEXT

いつの間にか設定に「甘やかし慎ちゃんと甘えっ子久美子さん」という構図ができました。
…これ2人揃ったらなんか(周りにとって)酷いことになりそうな…。
シリアスちっく(まさに「ちっく」が限度です/笑)にしたいというか、妄想ではかなりシリアスに悶々してるんですがうまくいきませんorz
まだまだ序盤ですが、よろしくお願いいたします。