そろそろ好きって言わせてよ
<20>
傍に居なければなんとかなると思ったのに。

あいつが望む「親友」に戻れると思ったのに。

自分の考えが甘かった事を、今痛感してる。



そろそろ好きって言わせてよ
<20>



 ヤンクミから離れて、一ヶ月。
 最初の2週間は新しい仕事に慣れる為に思った以上に手一杯で、比較的平気だった。
 休めという上司と先輩を説き伏せ、それからまた休みナシで2週間働き続け…仕事自体はなんとかかんとか手助けされなくても取引先と単独でやりあえるまでにはなったけど。

 肉体的にはアフリカでの肉体労働のお陰でまだ余裕があったが、精神的にはもうバカになるんじゃねぇかつー位ヤンクミ切れでいっぱいいっぱい。

 帰国した途端にあの家で一緒に暮らしたから、そこかしこからあいつの気配を感じて、家に帰るのさえ最初の一週間で辛くなり、ここ3週間ほどはずっと会社に寝泊りしている。

 何を言われても休もうとしないオレに痺れを切らした上司に「労働基準法に引っ掛かるだろ!」と強引に取らされた、今日明日明後日の3連休で…一端帰宅はしたが、一緒に寝た記憶が蘇ってベッドも使えずに荷物だけ持ってクマの店に来た。

「らっしゃーい、慎!」
「…悪いクマ、今日と明日泊めてくれ」
「へ?そりゃいいけど…どうしたのさ?」
「ちょっとな」
「ふーん…じゃ、泊まるんならあいつら呼ぼうよ」
「あー…だな」

 理由を聞かずに、あいつらを呼ぶことを提案してくれたクマの気遣いが有難い。
 仲間と過ごせば、ヤンクミがいない隣の空間の寒々しさを少し忘れられる気がして、携帯を取り出し連絡しようとして…こっちの新しい方にデータを入れてなかったことに気付く。

「クマ、携帯貸してくれ」
「え?慎ちゃんこの前の帰国祝いん時、連絡先交換してなかった…あれ。その携帯」
「…新しいのしか持ってきてなくて」
「仕事用?」
「っていう訳じゃねぇけど」

 手渡されたクマの携帯からデータを移して、うっちーに電話をかける。

『はい内山です』
「うっちー?オレ」
『慎ちゃん!なーんだよ番号違うからわかんなかったじゃん!』
「悪ぃ。多分しばらくこっちしか使わねぇから登録しといて」

 今日明日と2泊クマの所に泊まる旨を伝えると、幹事体質のうっちーは誘う前に他の2人に連絡つけて一緒に行くから、と楽しそうに切った。

「来るって」
「だろうね~来る度に集まりたいって言ってたし」
「…そっか」

 酒を入れる前に食っておこうと頼んだラーメンを食い終わった頃に、早々と3人が賑やかに店の中へ入ってくる。

「うぃーっす!」
「あ、マジに慎ちゃんいるし!」
「あ~ビールビール~!」

 仕事上がりらしかったうっちーの言葉に「自分家と間違えてんなよ」と野田の突込みが入り、笑いながら学生時代からの集まる時の指定席になっているテーブルに4人で腰を下ろし、「今日はもう店じまいだ!」と暖簾をしまったクマ持って来たビールを掲げて軽く乾杯をした。

「慎ちゃんのお呼び出しって珍しいんじゃね?」
「そうか?」
「つーか帰国後初でしょ初!薄情モンがあ!」
「残念~呼ぶっつったのオレだよ」
「「「クマかよ!!」」」

 揃ってブーイングを向けるのに、口元が綻ぶ。

「つーか、慎疲れてねぇ?」
「目の下にクマ。珍しいじゃん寝不足」
「…仕事、忙しくてな」
「だけ、じゃなさそうだけどぉ?」

 綻んでた口元が、苦笑いに変わったのに気付いたうっちーが、酒と一緒に成人後堂々と吸えるようになった1本に火をつけ煙を吐いた。

「なンかあったんじゃねーの?」
「吐け慎!」
「…別に」
「じゃねーだろ?ここ誤魔化しちゃダメよ慎ちゃん」
「「「伊達につるんでないンですから!」」」
「お前らなあ…」

 他3人も次々と手を出して周りが若干煙たくなり、その中でニヤつく奴らを若干睨んだが引くことなく先を促してくる。
 …面白がってるのもあるんだろうけど、本音では相当心配してくれてるから引かねぇっていうのがわかっているから心底拒絶できずに…オレも1本手を出そうとして、思い直して引っ込めた。

「吸わねーの慎ちゃん」
「んー…」
「禁煙してたっけ?」
「してねぇけど、最近吸ってなかったから」
「吸う暇ない位忙しかったの?」
「いや、苦いから吸うのやめろって言われて」
「あぁ、キスすると苦いらし…い…」

 しまった。と思って口を噤んでももう遅い。
 目玉飛び出るんじゃねーかと思うくらい全員が目と口を全開にして呆然とオレを見てた。
 …お前の目玉がそんなに開くって初めて知ったよクマ…。

 数秒の沈黙の後、多分全員息を止めてたのか一斉にゲホゲホと咳き込んで慌ててビールに口をつけて、また更にむせている。

「落ち着け」
「むっ…ごほっ、無理っ!…ゲッホ!」
「いってぇ!鼻入っ…いってぇマジで!!」
「おい…慎…」
「………」
「最近ってことは、最近だよな?」
「つーか帰国祝いん時は吸ってたっしょ!」
「………」
「やややややや!そこでだんまり禁止!」
「「「「彼女できたの!?」」」」
「…できてねぇし」

 次々突っ込まれて改めてオレの中でヤンクミとの関係のうやむやさが浮き彫りになって思わず眉根が寄った。

「だって、苦いからやめろとか言うってことはよ?…何回もしてるってことじゃん?」
「彼女じゃないのに?」

 視線をウロウロさせながら余計な推理を働かせたのはうっちーで、その推理にまた余計な事実を付け加えたのは首元のスカーフを忙しなく指でいじる野田。

「し…慎ちゃんがそんな手ぇ早い子だったなんて!硬派だと思ってたのにぃ!」
「…フラれっそうだし…」
「「「「はあああ~~!!?」」」」

 一連のやり取りに真っ赤になってオレの手の早さを嘆きながらテーブルに突っ伏した「自称恋愛マスター」南に溜め息をつきながらぽろりと零したら、今度は全員に身を乗り出してガンを付けるようにオレを見た後、それぞれ複雑そうな顔で椅子に座りなおす。

「オレさ~…慎はヤンクミとくっつくと思ってたよ…」
「「「オレも」」」
「…そこで声揃えんな。つーか何で…」
「だーって、慎ちゃんの甘やかし方とか半端なかったし」

 確かに、ヤンクミに対するオレの行動は自覚した時も思ったけど、そう言われても仕方ないものだった。
 …けど、あいつはオレに甘えてるというか、懐いてるだけで恋愛対象として見てる様には…どれだけ考えても今もって思えない。

「ヤンクミはヤンクミで…なあ」
「慎に対しての甘えっぷりは未だに半端ねぇし」
「家族みたいなもんだからだろ」
「ってだけじゃねーってアレは」
「慎がアフリカ行ってた時さ、結構オレ等も会ったりしてたけど…あいつ「ヤンクミ」でしかなかったもんよ」
「…は?」

 ヤンクミはヤンクミだろ?と訳の分からないことを言い出したうっちーに片眉を上げて無言で問うと、いやだから~と言葉を捻り出すように話を続ける。

「オレ等とか、黒銀くん達の前じゃホンット「担任」の顔しか見せなかったの」
「わかるわかる!オレも最初すげーヤンクミが年上に見えて気持ち悪かった!」
「…6歳上だろ」

 そうは見えないけど。と付け足すオレに「そうなんですよ!」とまたも声を揃えて、
4本のタバコが向けられた。

「見えなかったんだよそれまで!6歳上に!!」
「「「慎ちゃんが居たから!」」」
「…何でオレ?」
「オレ等、ほとんど慎ちゃんといるヤンクミばっか見てたからさ、甘えてるヤンクミが普通だと思ってたんだけど、そうじゃなかったっつー話」
「慎ちゃんが帰ってきた途端にあれだったもんなあヤンクミ」

 帰ってきた時のヤンクミの様子を思い出して、クマと顔を見合わせて苦笑いがにじみ出る。ああだったから、頑張って「大人」をやってたって言うのも…分かってはいたけど、イマイチ信じきれてなかったっつーのもあるかも。

「頑張ってたんだ…」
「そりゃーもう姐御にしか見えなかったな」
「甘えたいっていう姿勢さえなかったもん」
「何回か「お前ホントにヤンクミ?」って聞きそうになったし!」

 ぎゃはは!と大口開けて笑いながら軽口を叩いて、今度は南が話を振る。

「だからさー、ヤンクミが甘えれる場所って慎のトコしかねぇんじゃねぇかと思ってたから」

 慎とくっつくと思ってたわけですよ!と肩に腕を乗せられた。

「けど、慎がそんだけ落ち込む?つーか、凹んでんのがすぐ分かる位好きな相手いるんなら…ま、残念でしたってことだよねぇ」
「つーか慎ちゃんがどんな風に告ったかすっげー気になるんですけどー」
「オレも!なんか全っ然想像つかないっ!」

 やたらオレがどうやって告白するかで盛り上がりだした4人を尻目に、ヤンクミの事を思い出す。
 考えないようにしても、いつも頭の片隅にあった姿は見慣れた甘えたなヤンクミで…そういえば大江戸でも大抵子供っぽくなるけど、オレにするような甘える様子は見たことが無かった。

 本当にアレがオレだけの限定だとしたら、この上なく嬉しいけど。それが恋愛感情からくるのかただの信頼からくるのかは未だに底辺を彷徨ってる脳みそじゃわからない。

でも。

「告白、してねぇ」

 ぽつりと呟いたオレの声に今日何度目かの視線が集中した。

「…はっ?してない!?」
「してねぇ」
「告らねーでどうやってフラれんだよ!」
「拒否られたし…」
「告るのを!?」
「いや…」
「おっま…告らねーで手ぇ出しちゃだめっしょ!」
「…だよなぁ」

 ホントだよ。
 オレ、すげーズルイことしてんじゃん。

 あいつが自分で気付くようにとか言って、何で逃げてんだよ。
 オレが先に気付いたんなら、教えてやればよかったんだ。

 体だけ繋いで、勝手にほとんど手に入れた気になって、同じ気持ちが返されないかもしれないからってあいつから離れて…最初っから、気付いた時からもうそれはただの片想いだったのに…好きだって。気持ちを伝える、当たり前のことすらしてなかった。

 こいつらが言う様に、あいつの甘える相手がオレしかいないんだったら…そのオレが何も言わないで避けてるのをどう思ったんだろう。

 公園の隅で泣いてんのを見つけて、嫌がるのを無理矢理抱きしめて…初めてオレの腕ん中で泣いたあの時みたいに、一人でちっせぇ体丸めて声を殺して泣いてるんだろうか。

 何やってんのオレ。
 泣かせたくねぇ惚れた女が、もし自分の所為で泣いてんだったら…告って驚かせてでもなんでも、泣き止ませるしかねぇじゃん。

 ずっともやの掛かってた視界が、スッキリと晴れ渡った気分。
 あんだけ一人で悩みまくってたのに、この数時間で解決するとは。

「ぶっ…ククッ…」

 無性に可笑しくなって笑い出したオレに怪訝な顔した頼りになる仲間達が、笑ってる理由が分からずに「何?何?」とお互いに聞き合ってたけど。
 解決しないし、オレも話さないと踏んだのか、南が体を反らしてビシッと指を突きつけてくる。

「あーもーヤンクミとかどうでもいいから、早いとこ告れ慎!」
「その「どうでもいい」ヤツに告るんだけど。オレ」
「「「「…ハイ?」」」」
「言いそびれてたけど、オレが惚れてんのその「どうでもいい」ヤンクミだから」

 ニヤリと笑って見せると、数拍置いて大騒ぎ、というか雄たけび上げながら大喜びし出した奴らに蹴り出されるように店を出て駆け出した。



NEXT

慎ちゃん悶々終了…というか、白金メンバーが集まると暗くなりようがない。
さて次回は猫まっ…慎まっしぐらです。久美子さんに。