そろそろ好きって言わせてよ
<7>
一度懐を許してしまったらもう戻れない。
結構オレって薄情なヤツだと思ってたんだけど

お前に対しては案外違うみたいだ。



そろそろ好きって言わせてよ
<7>



「広い!!」
「言っとくけど俺の選択じゃねぇ。親父に金だけ渡したらここになった」
「えー!何!親父さんと仲良し!?」
「…それはこの上なく気色悪ぃな…」

 ヤンクミがいつまでも離れようとしないし、オレがいなかった3年間はクマ曰く、かなり頑張って「大人」をやってたっていう話だったから…多分、話したいこととか色々溜まってんだろうと新居に誘ったら、それはそれは嬉しそうに首根っこに飛びついてきた。
 3年ぶりとはいえ散々ひっついてくるのは在学中からの話だから、特に珍しくもなく首にぶら下がってるヤンクミの背中をよしよしと撫でて「泊まるんならちゃんと電話しとけよ」と注意してたのだけども。

 今の教え子だという黒銀の5人が、目玉○父でも飛び出してくるんじゃないかという位目を見開いて固まっていたのを考えると、甘やかし役のオレがいない3年間ちゃんと「大人」をやってたって話は本当らしい。

 普段どんだけボケーっとしてても、きちんと「大人で先生」の顔を保っているヤンクミしか知らないのであれば、現生徒はこの状況をさぞかし驚いたことだろう。
 ベッドとテーブルと少しの食器に生活雑貨と備え付けのクローゼット以外、ほとんど揃っていない家でも「オレの新居」となればヤンクミには楽しい探検場所になるようで。
 あっちへフラフラこっちへフラフラと物珍しそうに動き回っている。

「ヤンクミ、ちゃんと家に連絡」
「うーん…ここ、近いな、うちに」
「帰るなら連絡しなくてもいいと思うけど」
「や!泊まるんだけど、どーせなら夕飯うちで食べねぇか?」
「そりゃオレは構わねぇけど」

 おじいちゃん達も会いたがってるし、決定~!とニコニコ顔のヤンクミに、さっきお前より先に会って来ましたと言いにくいな…と少しだけ思案してる内に、彼女はさっさと大江戸に連絡してオレと二人で帰ると宣言してしまったらしい。
 すみませんテツさん。

 明日か明後日行くと言って置きながら、結局当日舞い戻ってしまうことを一家の台所の主に心の中で謝った。

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  案の定、ヤンクミの性格を良く知る大江戸の皆さんはうまく誤魔化そうとしてくれたのだけど、天然極道のミノルさんが「いやーさっき慎の字が来た時ぁ…」な んて話を始めてくれちゃったお陰で、クマの次にここへ来た事が彼女の知る所となり…芋づる式に実家へ行った事もバレて、帰国後最初の大江戸での夕飯はこの 上なく(ヤンクミが)騒がしく過ぎた。
 拗ねに拗ねて、最後には呆れた三代目に怒られて更に拗ねた挙句「もうしばらく沢田ん家の子になる!!」と訳がわからない啖呵を切って解散となったのは、つい1時間ほど前のこと。

 しかし「しばらく」の期間は言わなかった為、とりあえず1週間だけというタイムリミットを無理矢理納得させて、もちろん女物なんてうちにはないから着替えとか色々ちゃんと準備しろと部屋に放り込んで、オレは三代目と将棋を打っていた。

「折角帰ぇって来たってぇのに…すまねぇな慎の字」
「いえ、逆に帰ってきた実感が沸いてきました」
「ハッハ!お前ぇさんも苦労性だなぁ~」

 パチン、と駒を置いてミノルさんが持ってきてくれた香りの良い緑茶を一口啜った後、それまでのゆるりとした雰囲気から少し緊張感を醸し出し始めた三代目が、珍しく言い難そうに口を開いた。

「うちの事情なんだがよぉ…お前ぇさんが帰ぇってきたからには、あのはねっ返りのことだ。前ぇみてぇにお前ぇさんの周りをウロチョロすると思うから、話しておこうと思うんだが」

 緊張感がある筈なのに、どこかまるで子供の世話を頼まれるような言い回しに笑いそうになった顔を引き締めて、将棋盤に向けていた視線を三代目に向ける。

「まだ、正確に日にちが決まってるわけじゃぁねぇんだが…近ぇ内、久美子が見合いをしなきゃあならなくなってなぁ…」
「………」
「天海ってぇ所からの話でな…情けねぇことに、ちょっくら即日断り憎いお相手だったもんでぇ、一応久美子に話を通したんだが…」

 何を遠慮してんだか、あいつぁその見合い話受けるって言い出したんだ。とため息混じりにやるせなさそうに、三代目が話を続けた。

 日本に居た時にオレとヤンクミがどんな付き合いをしていたかを良く知るからこそ、普通であれば家の事情など関係の無いただの久美子の元教え子で、しかも堅気のオレに打ち明けたのだろう。

 話を聞いた限りと、三代目の話し振りからでは正確なことはわからないが(大江戸の力で調べ上げたのだから、信憑性の高さは言わずもがなだ)、それでも見合い後ヤンクミが結婚して幸せになれそうもないことは十二分に分かった。
 とはいえ、堅気で裏世界の事情に通じてない自分に何ができるわけでもないのがまた腹立たしい所であるけども、三代目がオレに話したってことは大江戸にできなくてオレしかできないこともあるということだ。

 それと、見合い相手だという「万条目(まんじょうめ)組のご子息」とやらが見合い前に何か探りを入れてくる、もしくはオレかヤンクミに何か仕掛けてくる可能性も高い。

 とりあえず、用心することが先か。

 話を一通り聞き終えてお互いの視線を盤に戻した所で、トイレに立ったオレに今度はテツさんが深刻な顔をして大変胸糞悪い話を聞かせてくれたお陰で、オレは自分の精神を通常に戻す為に長々とトイレに篭るハメに陥った。

 戻ってくると準備を終えたヤンクミが「珍しく腹でも壊したのかあ!?」と笑う横で、テツさんが申し訳なさそうに縮こまってるのと三代目がまたもデリカシーの欠ける孫娘に呆れた顔をしているのが見えた。

 誰の為にトイレに篭ってたと思ってんだコラ。

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やーっと少し進みました。
まんじょうめさんは2/0/世/紀/少/年のあの方がポーンと頭に浮かんだんで…まさにあんな人を想像していただけたらと思います。
話の展開的にも大変都合がいいです、多分(笑)。