そろそろ好きって言わせてよ
<8>
生物学的な分類で言えば「女」。
くっついた感触から言っても「女」。

でも、オレにとってお前は「守るべき」「親友」。



そろそろ好きって言わせてよ
<8>



 拗ねてた膨れっ面はどこへやら。
 荷物をまとめるまでは盛大に膨らんでいた頬は、オレがトイレに篭ったことで引っ込んだらしい。

 結構あの顔を突っつくの好きなんだけど…。

  でも機嫌がいいに越した事は無いからまあいいか、と家に着くまでの10分足らずで通常から上機嫌に上書きされたヤンクミを家に招きいれて、途中で買ってき た酒とつまみをテーブルに出したり冷蔵庫に仕舞ったりしている間に当の本人は空いている部屋を自分の滞在場所に勝手に決定して、部屋に転がっていた空きダ ンボールに持ってきた自分の荷物をせっせと入れていた。

「…引っ越すんじゃないんだから、バッグに入れときゃいいのに」
「出しにくいもん。あー箪笥があればいいのになーなあ沢田!」
「明日チェスト届くから、それに入れろ」

 いいの?悪いなあ!と言う顔は全く「悪い」と思ってない顔だった。
 オレ同居する予定ないはずだけど、この分だと普通に「ヤンクミの部屋」が出来上がりそうなのに小さくため息をつく。

「ヤンクミ、ビールでいいよな?」
「うん!風呂も入ってきたし、今日は飲むぞぉ沢田!」
「もう散々飲んでたの誰だよ」
「それはそれ、これはこれ」

 都合のいい肝臓なこって。

 荷物を移し終わってリビングに来たヤンクミとテーブルを挟んで向かい合わせに座り、改めて缶ビールで乾杯を交わす。

「は~…極楽極楽」
「風呂じゃねぇよ」
「沢田とサシで酒飲むのって初めてだもんな。なんか新鮮だ!」
「ま、前は仮にも教師と生徒だったからな」
「仮を付けなくても教師と生徒だったろーが!」
「仮の付かない教師は、生徒の家に一升瓶買い置きしたりしねぇの」

 挙句、受験の一週間前に受験生の自分よりも緊張して飲みすぎて介抱させたのを忘れたというのか。一応余裕を持って勉強してたオレだからいいものの、他のヤツだったら確実に落ちてるに違いない。と面白すぎる担任との記憶を思い出した。

 オレが卒業してからのヤンクミの事と、オレがアフリカに居た頃の事と、いくら話しても話が尽きることもなく、空いた缶ビールの量は気付けば二人で1ダースを越えていた。
 気分良く飲んでいたからか程よく二人とも酔った顔をしている。

「そういや、沢田の仕事っていつから?」
「とりあえず色々書類とか揃えたりなんだりで、10日後初出勤」
「そっかあ…それまでいてもいい?」
「一週間じゃなかったっけ?」
「おまけだ!」

 誰に対しての「おまけ」なんだかわかりゃしないが、多分不安なんだろう。

 見合いの話は、大江戸の話だから以前猿渡嫁に強制された時とは違って学校で話す訳にもいかないだろうし(そもそも大江戸の話ができない)、かといって白金の教え子に話すことでもなく…大江戸の人達には、余計に話せないとなったら残る先はオレしかいない。

 それでも、彼女なりに遠慮はしてるんだろう。

 オレが帰国したばかりで、暇を持て余してる訳でもないし。

 一緒に居れば話す時間は必然的に多くなるから、オレの時間が空いた時にでも言おうと思ってるのかなんなのか…オレ的には今更遠慮される方が気持ち悪ぃんだけど、そういうのはわかんねぇんだろうな。
 とにかく、三代目の話からしてもあまり悠長に構えてる時間はなさそうだし。ここはこっちから話を振ってやるのが得策というもんだろう。

「ヤンクミ、見合いすんだって?」
「ブッフォッ!!」
「…拭いとけよ、それ」
「ぬあっ!ごほっ…なんで!?」
「さっき三代目に聞いた」
「なんて!!?」
「いやいや見合い話受けちゃった可哀想な孫娘をよろしくって」
「はああああっ!!!?」

 どうやらまだオレに言う心の準備は整ってなかったらしいヤンクミは、漫画かアニメかっつー位盛大にビールを噴き出して動転しまくっていた。

 拭くものを渡して、わたわたとちょっと酔って覚束ない様子で拭き終わるのを眺めてから、会話を再開する。

「で?」
「…で?」
「見合い」
「…する。けど」

 温度差で付いた缶の水滴を指先でなぞりながら、少し迷った後

「…したくない。気がする」

 本音がぽろりと零れ出た。

「しなきゃいいじゃん」
「そーいう訳にもいかねぇの!」

  三代目が断れなくてヤンクミにも話が行った位だから、諸所の事情はなんとなく分かる気はするけど、いつも比較的歯切れ良く物事を決めるヤンクミが「したく ないのに、しなきゃいけない」と憂鬱そうにしているのを見れば、親友としてはやはり「させたくない」と思ってしまうのが道理で。

 部外者の自分でさえ、大江戸がどれだけすごい組なのかというのをなんとなく分かっている位だから、その筋の奴らにしてみれば「孫娘と結婚」したら「大江戸が付いてくる」のはこの上なく美味しいご馳走に違いない。

 しかも、この見合い…会ってしまえば、こちらから断ることは難しく、相手から断られない限りヤンクミの結婚は決定になってしまうのが現状。

 更に現段階では、そのお相手の「万条目」がヤンクミに目をつけるもう一つの理由があって…そんなに小さな組でもなく、大江戸自体にそんなに執着がなさそうだといえば…おそらく重要視しているのは「もう一つの理由」なのは明白だ。
 ということは、その理由を無くせば、向こうから断ってくれる確率が高いのではないかという目論見。

 「山口久美子」が、「男」の家で暮らしている。という事実が相手に分かれば、それだけでも「理由」を無くすには有力な力となる。
 三代目はそういう目的もあって、今回ヤンクミの「居候」を許可したのだろう。
 確実に自分が信用できる相手だと、三代目自らが認識してくれてるのは素直に嬉しいが…それだけでは弱い、という気持ちは否めない。

 ヤンクミがきちんと恋人を作れば話は早いんだけどな…。

「なあ、お前今男いねぇの?」
「ブーッ!!」
「…それも拭いとけよ」
「お前なんなんだよぉさっきから!」
「篠原はどうなったんだよ」
「…転勤になって…あ、でも今好きな人ならいるぞ!九條先生っていってな~」

 頬を染めて鼻息荒く「九條先生」の話をしはじめたが、延々と続くソレは懐かしの「篠原さん」を話す時のヤンクミのままで、要するに10日やそこらどころか一年あっても進展が見込めないのだけは理解した。

「でな!その時九條先生が」
「話戻るけど」
「え?あ?う、うん。何?」
「まんじょーめサンの話。明日から毎日送り迎えすっから、飲み会はオレと一緒以外しばらく諦めろ」
「な、なんで!?」
「…ま、予防っつーか…念のため。残念ながら九條とどうこうなりそうもねぇし」
「最後だけ余計だ!!」

 とりあえず、オレ達が同じ家に住んでいると認識させるまでは、あまりヤンクミが単独行動をするのは避けさせたい。
 他に何かできる手段はあるかと考えを巡らせていると、こちらをじっと見るヤンクミと目が合った。

「…なあ、沢田」
「…どした?」
「沢田は…その、彼女とか…いる?」
「アフリカから帰ってきてお前を一番優先してるオレに聞くのか、それを」
「だよなあ…じゃあ、好きな子とか」
「いたらお前は今頃追い出されてるけど」
「で、ですよね…」

 考えなくてもわかりそうな事を聞きだしたヤンクミに怪訝な顔を向けると、珍しく難しい顔をしたヤンクミが、不意に真剣な顔をしてとんでもないことを言い出した。

「沢田、お前あたしを女として見れるか?」


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次からまた久美子さん視点となる為、話の進みが期待できません…。
お付き合いよろしくお願いします!